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インフォメーション
題名 | 「おくのほそ道」殺人事件 歴史探偵・月村弘平の事件簿 |
著者 | 風野 真知雄 |
出版社 | 実業之日本社 |
出版日 | 2017年4月4日 |
価格 | 682円 |
登場人物
・月村弘平
歴史研究家で歴史探偵 先祖は八丁堀の同心 バスツアー企画と記事原稿も受注
・上田夕湖
警視庁捜査一課刑事 月村の幼馴染でカノジョ
・大滝豪介
捜査一課第四係七班 上田の同僚
・田辺惣一郎
時代小説家
・綿貫与里子
芭蕉資料館館長 俳句愛、芭蕉愛が強くプライドも高い
・石川早苗
第一被害者 俳号:石川苗女 高額老人ホーム「聖パウロホーム」に住む資産家
・時波紳二郎
第二被害者 大金持ちのトレーダー
・塚田眞砂子
第三被害者 麻布の不動産業経営者
・大間木徹
岩手県一関市 平泉総合病院院長
・鹿島亮介
ジャズ喫茶「ウエスト・コースト」マスター 心不全で死亡
・上原真純
鹿島の妹
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
芭蕉庵から始まる・深川の芭蕉資料館と怪しい館長
深川で殺人事件が発生した。
休暇中の夕湖に捜査一課から招集がかかり、深川署との合同捜査に入る。
事件現場は松尾芭蕉ゆかりの地。
被害者は50代の女、身元捜査は難航したが、川底探索中、五本松で夕湖は二人目の被害者遺体を発見。
死因は二人とも神経毒物だった。
五本松は芭蕉も一句詠んだ場所だと月村に告げられた夕湖は、芭蕉がらみと予想する。
月村は夕湖に俳句愛好者の可能性から芭蕉資料館を示唆した。
資料館の綿貫館長は被害者写真の確認に非協力的。
しかも、暴言吐きに手をやき、不審感から大滝刑事は館長を捜査対象にする。
やがて被害者の短冊(俳号「石川苗女」)を館内で発見。
芭蕉資料館の防犯ビデオ画面には石川苗女と一緒の男が映っていた。
一方、「おくのほそ道ミステリーツアー」企画の下見中だった月村は日光東照宮にいた。
おくのほそ道がテーマだけに、芭蕉研究は外せない。
紀行文にしてはフィクションが多く、芭蕉の記述は嘘だらけ。
そんな折、土産物屋で娘を同伴した田辺惣一郎に遭遇する。
「芭蕉は旅をしていない」と異説を唱え芭蕉の歴史ミステリーの取材中だった田辺は、月村と「芭蕉隠密説」で意気投合。
月村に原稿の考証・監修を依頼した。
しのぶ文知摺の里の殺人・バスツアー出発
平泉取材後、月村は帰京した。
芭蕉隠密説から「俳諧師」を装うはありがちと考える。
曾良が旗本御用人で壱岐島平戸藩を探る密偵だと説き、「芭蕉や曾良の身代わり」説まで設定した田辺。
藤堂家が芭蕉を使い、伊達失墜を画策したと解釈する。
「芭蕉贋者」説まで田辺に問われた月村は、芭蕉・曾良隠密説の筋書きは伊達藩を探る芭蕉、指示は藤堂家、曾良も同じ筋であり、貧乏旅行ではなく資金豊富な旅だと推察した。
月村の提案で、夕湖は老人ホーム「聖パウロホーム」の捜査をした。
ホーム職員を聴取。
第一被害者は本名、石川早苗と判明する。
石川は四人で「おくのほそ道」を旅するとホーム職員に話しており、石川の携帯からホームにメールが届いたため疑わなかった。
夕湖が石川の携帯とされる相手にメールを送ってみると、石川に成りすました返信メールが届いた。
逆探知の先は福島だった。
「おくのほそ道ミステリーツアー」企画でバス添乗中の月村は、神田の行きつけだったジャズ喫茶「ウエスト・コースト」の鹿島が亡くなったことを新聞で知る。
時を同じく、福島滞在中の田辺から「しのぶ文知摺の里」事件の報告があり、現場の写メを送ってもらった月村は深川との関連を疑い、写メを夕湖に送信した。
月村から「しのぶ文知摺の里」の現場写メをもらった夕湖は、急ぎ福島へとぶ。
「しのぶ文知摺の里」の遺体は第三被害者だった。
一方、綿貫は病院長盗撮に続き、K女子大教授をつけまわして盗撮行為。
大滝はついに綿貫を確保した。
聴取で「好みタイプの追い回し」と判明。
押収したカメラには五本松の第二被害者の男が写っていた。
男は時波紳二郎。
時波の携帯記録から、「しのぶ文知摺の里」第三被害者が塚田眞砂子と判明。
夕湖は四人目の同伴者探しに、福島駅防犯ビデオを検証。
三人は俳句仲間ではなかった。資産家ばかり。
やがて、第四の人物、大間木徹と接触する。
四十年前の平泉
月村の脳裏に一瞬「金」が思い浮かび、「芭蕉は金が目的か?」と想像する。
田辺にそれを伝えると「藤原三代の埋蔵金」の知識を披露しはじめた。
芭蕉には奇妙な行動が多く、松島の記載がそっけないこと。
正宗像に触れず、滞在中に一句も詠まず曾良の一句だけだったこと。
月村は芭蕉の話から、四十年前に四人が埋蔵金を見つけたのではないかと思う。
一方、平泉総合病院にいる夕湖は、四人の資産家の関係を大間木に問う。
四十年前、大間木と三人は神田神保町のジャズ喫茶「ウエスト・コースト」の常連だった。
マスター鹿島が「おくのほそ道」旅を計画したが、店で食中毒が発生。
鹿島は行けなくなり、結局、旅は大間木と三人になった。
平泉まで足を延ばすと偶然にも中尊寺裏で埋蔵金を見つけ、四人は砂金や金塊を持ち帰り三年かかって換金したと、大間木は告白した。
やがて、第二被害者の時波の携帯着信履歴から、鹿島亮介の名が見つかる。
警察は鹿島を疑う。
さかのぼる謎
月村は、四人がジャズ喫茶「ウエスト・コート」の常連と聞き、彼らが店の客層に合わないと感じる。
月村が亡き鹿島の携帯に連絡を入れると、妹の真純が出て、第三被害者の塚田と福島で会ったと答えた。
直ぐに警察へ伝えるよう促す月村。
真純は深川警察署で兄鹿島と平泉や福島へ行った経緯を告白した。
夕湖たちが揃う平泉総合病院に合流する月村は、埋蔵金と被害者たちを重ね合わせた。
急に資産家になった三人に疑問をもった鹿島の動機が事件の始まり。
月村は古い新聞記事コピーを刑事にみせた。
四十年前、東北の老舗菓子屋で起きた八千万円強奪事件。
それを四人の犯罪と思い込んだ鹿島。
思い込みから始まった殺人事件。
月村の推理で真相は解明されたが、芭蕉も埋蔵金を見つけたのか?と月村の推理は膨らむ。
「あらたふと青葉若葉の日の光」の句が、平泉の山で浮かんだのものであればと想像は絶えなかった。
ライターのコメント
幼馴染の月村と夕湖が親に内緒で付き合う関係に、なぜかハラハラ、ドキドキだ。
情報を共有し、互いに仕事と推理を両立する巧みさ。
月村の推理を事件現場にもち込む夕湖の要領の良さも信頼の証だろう。
二人が交互に描かれる展開は、スピーディで軽快なタッチ。
読んでいて映像イメージが浮かぶ。
リズミカルな展開に引き込まれていく。
夕湖が解明する度に「カレシに教わったのか」と上司にからかわれる場面はコミカルでウイットに富ぶ。
いつも相手を尊重する仲の良さは羨ましい。
埋蔵金やら隠密やらと、歴史ベースの発言がワクワクさせる。歴史の信憑性を高める描き方は秀逸。
歴史が不得手な読者でも、時代を超えたミステリアスな展開に引き込まれるはずだ。きっと読後は爽やかな気分が残るだろう。
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※本記事のセリフ部分については、紹介している本書より引用しています。