【とにもかくにもごはん】
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読むのに必要な時間 約 5 分
インフォメーション
題名 | とにもかくにもごはん |
著者 | 小野寺史宜 |
出版社 | 講談社 |
出版日 | 2021年08月12日 |
価格 | 1,705円(税込) |
登場人物
・松井波子
「クロード子ども食堂」の責任者
・松井隆大
波子の亡き夫。
・松井航大
波子の息子。高校二年生。
・黒沼時雄
カフェのオーナー。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
クロード子ども食堂の誕生まで
何年か前に、政府が貧困率を発表した。
貧困率とは、所得が国民の平均値の半分に満たない人の割合のこと。
それによって、子どもの六人に一人が貧困状態にあることが広く知られるようになった。
目に見えないだけで、満足にごはんを食べられない子どもたちが、そんなにもいる。
経済的にも時間的にも、無理をすると続かないので、子ども食堂の開催は月二回の第二・第四木曜日。午後五時から午後八時。
メニューは一種類。
子どもは無料、大人は三百円。
主は温かいごはんを提供すること。
発端は、波子の夫・隆大の死。
七年前に車の事故で亡くなった。
隆大が亡くなる前、夫婦関係はうまくいっていなかった。
隆大はいつも休日前夜に家で缶ビールを飲んでいたが、自宅近くの児童公園で飲むようになった。
家で飲むと波子がいやがるからだ。
それに気づいたのは、波子がたまたま夜にスーパーへ行ったときだった。
波子の前を隆大は歩き、児童公園に入っていき、ベンチに座り、コンビニのレジ袋から缶ビールを出して飲みはじめた。
一連の流れはスムーズで、隆大の日常であることがわかった。
波子はベンチ前まで歩き「みっともないからやめてよ」と言う。
すると隆大は、裏のアパートに三年生の男の子がいたこと。その子がここで一人でパンを食べていたことを話しだす。
隆大は、どうしてここでごはんを食べているのか男の子に尋ねると「こっちの方が明るいから」と答えた。
男の子は電気を止められていて暗いアパートの部屋よりは街灯がある公園のほうがまだ明るいから、ここでパンを食べていた。
男の子の名前はエイシン。
隆大はせめてエイシンの見守り役ぐらいになればいいと思って、児童公園でビールを飲む回数が増えた。
しかし、エイシンは引っ越してしまった。
隆大は後悔していると言う。
一度でもいいから、エイシンに家でごはんを食べさせてあげたかった、と。
隆大が亡くなったのはその五日後だった。
エイシンにごはんを食べさせてあげたかったと言う隆大の言葉が、波子のなかにずっと残っていた。
そして今年の初めに、波子は思いついた。子ども食堂をやろう、と。
息子・航大の想い
子ども食堂をやる、と波子が言いだしたとき航大は驚いた。
子ども食堂は、社会活動の一つとしてとらえられ歴史は浅い。
変に手だすけをするから親が怠けるのだ、というような意見もあるとネットで調べた。
航大は、母には無理だと思っていた。
しかし、無理じゃなかった。
波子は、やる側の自己満足で結果として誰かがたすかるならいいと言う。
そして、波子が一つ決めていること。
それは人の力になりたいからやっている。
何かしてあげてると思わないこと。
もし、波子がやってあげてるみたいな態度を見せたら、航大がちゃんと注意をすることだ。
その流れで、航大も店に行くこととなった。そのときいた子どもたちの話し相手になるだけでいいと波子は言う。
航大が子どもたちと話していると、店に黒沼が来た。
航大はまずいと思う。航大が小三の頃、石入りの雪玉を黒沼さんの家に投げてしまい、窓ガラスを割って逃げたことがあったからだ。
それ以降、黒沼とは疎遠になり、航大だけでなく波子と隆大も疎遠となった。
そのあとすぐに黒沼はカフェ『クロード』をオープンさせたが、二年で終わり、そのカフェを借りて波子が子ども食堂をしている。
カフェの名前も引き継いで。
波子のはからいで、黒沼と一緒に食堂のごはんを食べることになった航大は、黒沼とカフェの話や隆大の話ができた。
「母にここを貸してくれてありがとうございます」と、あのときちゃんと謝れていなかった「ごめんなさい」を言えた。
隆大から繋がった想い
今日、開店してすぐに一人できた子は、初めて見る男の子だった。
水野賢翔。一年生。
引っ越してきたばかりで住所も連絡先も分からないと言う。
帰りはお兄ちゃんが来てくれる予定と言うので、ごはんを食べながら待っていた。
閉店ギリギリに「遅くなりました」と、高校生ぐらいの子が賢翔を迎えにきた。
文化祭の実行委員で、遅くなったようだ。
連絡先を書いてもらうようにお願いすると、『水野英信』と記す。
エイシンと読むのだと言う。
引っ越してきたばかりだけど、小三の途中まではすぐそこのアパートに住んでいたと言う。
波子は体が震えた。
鼻の奥なのか目の奥なのか、とにかく奥の方がツンとくる。
あのときのエイシンだ。
エイシンは育っていた。
まさか会えるなんて。
声が震えそうになるのを抑え、波子は言う。
「初めまして。クロード子ども食堂の松井波子です」
ライターのコメント
政府が発表した貧困率。
数字に表しても、見えないから、周りにはいないと思ってしまう。
それが人ってものだ。
しかし、困っている人は近くにたくさんいる。
見ないことで“いない”って思っているだけということを頭の片隅に置いておいた方がいいなと思った。
本書には主人公・松井波子の素敵な言葉がたくさん詰まっている。
『ありがとうは言ったもん勝ち』
まさにそうで、大盤振る舞いしていいぐらい「ありがとう」をいっぱい言おうと素直に思えた。
しかし、ありがとうと言われることを波子は期待しないということも本書では描かれている。
それは、『言われたいっていう気持ちは、いつの間にか言わせたいに変わっちゃいそうだから』と。
その言葉もストンと自分の中に落ちた。
自分がただお節介でしたことでも、「ありがとう」って言ってもらわないと、ムッとしてしまう気分になることがある。
自分で気付かないうちに、見返りを求めてしまう気持ちがあったこと。
本書を読み、初心に戻れた。
優しい気持ちに包まれる素敵な本だ。