読むのにかかる時間 約 5 分
インフォメーション
題名 | 二木先生 |
著者 | 夏木 志朋(なつき しほ) |
出版社 | ポプラ社 |
出版日 | 2022年9月6日 |
価格 | 858円(税込) |
登場人物
・田井中 広一(たいなか こういち)
周りと合わせることができないことをコンプレックスに感じている。「普通」というものに対して強い執着がある。
・二木先生(にきせんせい)
田井中のクラス担任。美術を教えている。田井中とある秘密を共有する。
・吉田
クラスの中心的存在。やたらと田井中に絡む。
・委員長
田井中の昔からの知り合い。髪の毛を茶色に染めるなどいわゆる「高校生デビュー」をしている。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
①物語の始まり
田井中広一の憂鬱
主人公・田井中広一には悩みがある。
それは自分が他人とは違うこと。
普通の人がAだと答えるところは自分はBと答えてしまう。
自分が考えを言えば周りの同級生はそれを「田井中スイッチ」と言って小馬鹿にする。
流行りの音楽を聴いても広一にはその良さを皆と同じようには感じることができない。
自分は他の人とは違う。
母親からは「あんたはユニークなんだからそのままでいなさい」と言われたが、周りから指摘されても自分が変であることの理由がわからず不安になる。
そんな孤独を抱える広一にはある秘密があった。
広一の秘密
広一は本屋に行くと、成人向け雑誌コーナーへと入る。
そこで一冊の本をTシャツの下へ隠し持ち、そのままトイレへ向かう。
広一にとって本を万引きすることやそういう本を得ることが目的なのではない。
目的は「がじぞう」という作者の本を見ること。
がじぞうは小児性愛をテーマとした成人向け漫画を描いている。
広一はがじぞうの作品を手にするために度々本屋を訪れていたのだ。
そうして広一が後日、再び同じ手口で本を盗ろうとすると、今度は店員に見つかってしまう。
学校か親に連絡すると言う店員に対して、広一は学校を選び、ある人物を指定する。
それが田井中のクラス担任、二木先生だった。
②物語の目的
二木の秘密
広一に呼び出され、店にやってきた二木は店員の前で広一を叱責しつつ、広一が普段は真面目な生徒であることを話す。
それはまさに「良き先生」であるが、広一はそんな姿を注意深く見つめる。
二木は嘘をついているのだ。
自分は普通の良い先生だと。
車で送ってくれるという二木に対し、広一は二木が「がじぞう」ではないかと発言する。
広一はたまたま二木ががじぞうであることを突き止め、そのためにがじぞうの本を見ようとしていたのだった。
何が目的か、と二木が問いかけられたが、広一は特に要求はない。
そこから、二木と広一の不思議なやりとりが始まる。
二人の攻防戦
小児性愛者であることを認めつつ、広一の言葉をのらりくらりとかわす二木に対して広一は苛立ちをにじませる。
二木に執着し、二木の家で話をするようになると、ついに母親からどこにいたのか詮索されるようになる。
二木といたことを明かすと、母親は二木に電話をかける。
初めは苦言を呈していた母親も次第に二木に懐柔されていく。電話を切った母親は広一にあることを告げる。
「あんた、小説の新人賞に応募するんだって?」(本文より)
③目的達成までの物語の場面
意図しない暴露
広一はある小説を書いていた。
実は二木にもそれを見せ、添削してもらっていたのだ。
二木の適当な返事で新人賞に応募することになってしまった広一は考えを巡らせるのだが、同級生にも小説を書いていることがバレ、そのことでまたいじられてしまう。
たまりかねて同級生にからかうのを止めて欲しいと言っても「これはいじめではなくいじりだ。その違いがわからないお前は変だ」と取り合ってもらえない。
特にクラスメートの吉田は執拗に広一に絡んでいく。
だんだんと過激化していくそのいじりに広一はやりとりを録音しようと試みた。
しかし、それもバレてしまい、広一は録音していたスマホを取り上げられてしまう。
録音を消そうとする吉田。
しかし、そこで流れたのはかつて二木の部屋で広一が盗聴した、二木の性癖に関する音声だった。
広一の嘘
二木の秘密を知ったクラスメートたちは授業で二木にストレートな言葉をぶつけていく。
二木に対して明らかな嫌悪感を示す者が多く、二木はサンドバック状態に。それでも淡々と返していく二木を見た広一は思わず「ロリコンは自分」と二木をかばう発言をする。
あの音声は自分の小説を二木が音読しているもので、その小説は自分の話が元になっていると。
クラスメートたちがどよめく中、二木はクラスメートたちに「自分にもし大多数の人とは違う部分があって、それでも生きていかないといけないとしたらどうするか」と問いかけた。
そして、いつも通りの二木に戻るのだった。
④物語の締めくくり
二人の絆
この騒動を受けて二木は教員を辞める決断をした。
田井中はそんな二木と他愛のない会話をする。
二人の間には確かに絆が芽生えていたのだった。
ライターのコメント
読み進めている間、ずっと得体の知れない気持ち悪さが付きまとった。
じめっとした、まとわりつくような重い雰囲気が終始ずっと続くのだ。
何度も読む手を止めてしまった。
これだけ読むのに時間がかかった本はなかなかない。
二度は読み返したくないとも思う。
ただ、この本の与えるインパクトはすごかった。
それだけこの本はセンセーショナルであり、文芸界において異端とも言える作品だと思う。