【護られなかった者たちへ】
インフォメーション
題名 | 護られなかった者たちへ |
著者 | 中山七里 |
出版社 | NHK出版 |
出版日 | 2018年1月25日 |
価格 | 1,222円(税込) |
登場人物
・笘篠 誠一郎(とましの せいいちろう)
宮城県警捜査一課の刑事。妻と一人息子を震災で亡くしている。
・三雲 忠勝(みくも ただかつ)
最初の被害者。福祉保健事務所に勤めていた。慎重な性格で、度が過ぎるほどのお人好しとして周りからは知られていた。
・城之内 猛留(じょうのうち たける)
宮城県議会議員。政治家には珍しく悪い噂が無く、仕事仲間からは笑われるほどの堅物。
・円山 菅生(まるやま すがお)
三雲の部下で主にケースワーカー業務に携わる。職務に忠実だが、生活保護受給に抵抗を見せる人には粘り強く対応する姿も見られる。
・上崎 岳大(うえさき たけひろ)
塩釜福祉保健事務所で所長として働いていた三雲と城之内の元上司。所長を退任後は団体の名誉職となり、買春ツアーなどをあっせんしていたとされる。
・利根 勝久(とね かつひさ)
傷害事件で刑務所に入り、模倣囚として出所。一連の事件の犯人として捜査の対象となる。
・遠島 けい(とおしま けい)
利根とカンちゃんを優しく見守っていた老婆。生活保護を受給できず、飢えに苦しみ最後には亡くなってしまう。
・カンちゃん
遠島けいの3軒隣りに住む近所の男の子。母親の仕事が終わるのが遅いため、遠島けいを母のように慕い、利根の弟のような存在だった。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
アパートで見つかった餓死遺体
東日本大震災から4年後の仙台市で、餓死遺体が見つかった。
被害者は三雲忠勝という仙台市の福祉保健事務所に勤める人間だということがわかり、主人公・笘篠誠一郎(とましのせいいちろう)は捜査を始める。
金銭目的ではないことから怨恨の線で捜査が始められたが、被害者である三雲は関係者全員が「誰かから恨まれるなんて聞いたことがない」と口をそろえて言うほどの善人であることがわかり、捜査は難航する。
新たな事件発生
しかしそれから4日後、新たな事件が発生。
今度は宮城県議会議員の城之内猛留が同じく餓死遺体で発見された。
城之内も公私ともに善人であることがわかり、犯人は善人や人格者を狙っているのではないかと推察された。
遺体の状態からも同一人物による犯行だと判断し、被害者二人の共通点を探し出すことに。
すると、城之内は議員となる前は厚労省の公務員だったことがわかり、三雲と城之内が同じ時期に塩釜福祉保健事務所で一緒に働いていたことをつきとめる。
生活保護受給の実態
笘篠は、三雲の部下である円山菅夫に話を聞き、ケースワーカー業務に同行して生活保護受給者たちと接触する。
すると、正しい対処をしているはずの行政が生活保護者達からは忌み嫌われていることが判明する。
笘篠は三雲と城之内の勤務期間に生活保護申請を却下された者や、ケースワーカーの報告で生活保護を打ち切られた者に捜査対象をしぼり、その中でトラブルがあった4人の容疑者を特定した。
行政の裏側
4人に順に話を聞きに行った笘篠は、職場や家庭では善人と言われてきた三雲と城之内が、生活保護申請を却下された者たちからすると、冷酷非情と嫌われていることを知った。
結局、4人の中に犯人はいなかった。
しかし笘篠は一つ引っかかっていたことがある。
それは最後まで資料を出すことを渋っていた塩釜福祉保健事務所の支倉がUSBを改竄していたのではないかということだ。
利根勝久という男
案の定USBは改竄されていた。
改めて削除された3件を検証すると、それらは全て却下理由が「申請者が困窮状態である証明ができなかったため」という受給に至るには微妙なラインのもので、却下決定後に窓口担当とトラブルを起こしていたものだった。
その中の一人、遠島けいという人物の場合は、知人男性を名乗る男が三雲と城之内両名に怪我をさせた挙句、建物に火を放ち逮捕されたという。
笘篠は、その知人男性・利根勝久こそが犯人ではないかとにらみ、調査を続ける。
利根の行方
利根の行方を調べると、模範囚だった利根は予定よりも早く出所していた。
それは、三雲が連絡を絶った日の1週間前のことだった。
笘篠は利根の保護司である櫛谷の元を訪れ、利根が出所してから連絡をとっていた五代という男にいきあたる。
五代は名簿屋をやっており、独自のルートで利根が三雲らを殴った本当の動機、そして三人目の被害者になるであろう、三雲と城之内の上司だった上崎岳大という男がもうすぐ日本に帰国することをつきとめていた。
事件の真相
200人の捜査員が空港を張る中、女装して捜査の目を攪乱しようとした利根は「俺は上崎を護ろうとしていたんだ」という予想外の言葉を口にする。
そして、笘篠はどうしても連れていってくれと懇願する利根とともに塩釜にある遠島けいが住んでいた長屋に行く。
中に犯人がいるというのだ。
犯人に利根は「カンちゃん」と呼びかける。
そう、この一連の事件の犯人は、利根と同じく遠島けいを実の母のように慕っていたカンちゃんだったのだ。