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【本日は、お日柄もよく】

読むのに必要な時間 約 8 分

目次

インフォメーション

題名本日は、お日柄もよく
著者原田マハ
出版社徳間書店
出版日2013年6月7日
価格713円

登場人物

・二ノ宮こと葉
 普通のOL。スピーチライターの見習い。

・久遠久美
 「言葉のプロフェッショナル」スピーチライター。

・今川厚志
 こと葉の幼馴染。

・恵里
 厚志の妻。妊娠中。

・今川篤朗
 亡き厚志の父。国会議員。

・和田日間足
 コピーライター。ライバル。

あらすじ

※一部、ネタバレを含みます。

※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。

彼女との出会い

幼馴染の厚志と恵里の結婚式。

こと葉はスープ皿に頭を突っ込んだ。

厚志のクライアントのスピーチが長く、強烈な睡魔に襲われたのだ。

長い、長いスピーチが、一瞬、途切れた。

会場中の顔が、こと葉に向く。

こと葉はあわてて席を立ち、披露宴会場を出た。

トイレに行って、洗面台で顔を洗った。

ふと、くっくっと小さな笑い声が、すぐ隣から聞こえた。

メイクの剥げた顔を、笑い声のする女のひとに向ける。

「私、あなたに感謝すべきだな」と、にこっと笑顔になって彼女は言った。

「あなたがあれやってくれたおかげで、私もどうにか抜け出せたよ。あの退屈極まりないスピーチから」と、彼女の奇妙なフォローに、ほんの少し興味が湧いたこと葉。

彼女は、これでもか、ってくらいに、スピーチのダメ出しをした。

いったい何者なのか?

披露宴会場に戻ったこと葉は、彼女を探す。

すると司会者がもうひとつ祝辞を頂戴すると、久遠久美の名前を呼んだ。

あのひとだ。

久美のスピーチであたたかな拍手が、会場を埋め尽くした。

潮騒のような拍手は、しばらく鳴りやまなかった。

感動の波は、会場にいる全員の心を、じんわり、静かに浸していた。こうしてこと葉は出会ったのだ。

「言葉のプロフェッショナル」、スピーチライター、久遠久美に。

代表質問

こと葉は電車に揺られながら、今川篤朗の最後の代表質問のスピーチを反芻していた。

篤朗の最後の代表質問の原稿も、久美が書いたのだと厚志に教えてもらったのだ。

あの時の篤朗の言葉には、命の重みと熱があった。

生きていく尊厳を叫ぶ、ひたむきな人間の思いがあった。

今川議員の代表質問が終わった瞬間、議事堂いっぱいに、あたたかな拍手があふれた。

出席していた国会議員全員が、与党も野党も関係なく、いっせいに拍手を送ったのだ。

久美の事務所へ

こと葉は久美の事務所に行った。

彼女の「依頼人」になったのだ。

一ヶ月後に控えた同僚の結婚披露宴でのスピーチ原稿を、久美に依頼したのだ。

しかし、こと葉はスピーチの録画を何本も見せられている。

久美がスピーチの原稿を書いてくれるのではないのか?

スピーチライターは、原稿全部を書くわけではない、と久美は言う。

「あなたには、きっちり自分で書いていただきます。だって素質があるんだもの」

初スピーチ

同期の結婚披露宴。

そして、こと葉の初スピーチの日。この日のために久美の指導を仰ぎつつ、周到に準備し、特訓してきた。

こと葉のスピーチは会場いっぱいの拍手に包まれた。

スピーチの極意のひとつに“決して泣かないこと”がある。

しかし、こと葉は同期の泣き顔を見てたまらなくなった。

こと葉も涙がこぼれてしまった。

この結婚披露宴でこと葉はコピーライターの和田と出会う。

ステップアップ

定時に退社し、こと葉が向かう先は、スピーチライター・久遠久美の事務所。

こと葉は「スピーチライター修行」に通い始めた。

そこに民衆党代表、小山田次郎が久美を訪ねてきた。

いつのまにやらこと葉は、民衆党の選挙対策コンサルタントに参加することになっていた。

民衆党の小山田党首、民衆党選挙対策委員会との作戦会議がセットされていた。

いくらなんでも大役すぎる、と半べそをかくこと葉に、『私たちは国民の皆さんと一緒の目線を持っています』というようなシロウト目線が必要、とこと葉の目をまっすぐみつめて、久美は言った。

それから、小山田党首は三十分ほどかけて、「もしも次の政権を取ったら」ということだけに的を絞って話をしてくれた。

それが明確でなければ、政権交代しようにも国民の納得が得られない。

有効なスピーチの草案も作れない。

久美は両手を膝の上にきちんと揃え、ときどきうなずきながら聞いていた。

まるでスポンジのように。党首の話が久美の中に吸収されていくのがわかった。

党首は、スピーチライターとしてサポートしてあげてほしい人がいる、とこと葉にお願いする。

その人物は、今川民衆党前幹事長のひとり息子でこと葉の幼なじみ、厚志のことだった。

こと葉は重大決心をした。

会社を辞めて、本格的に民衆党からの立候補者となる厚志を全力でサポートしようと。

そしてこと葉は久美のもとに、スピーチライターとして入社することとなる。

ライバル

厚志の対立候補は厚生労働大臣、進展党・黒川常治。県下の医師会という巨大組織にコネクションを持つ現役大臣。

この大きな壁に新人候補の厚志がどれほどたてつけるのか。

今川篤朗の息子とはいえ、厚志は政治の世界ではまったく知名度もなければ、地元の企業や団体とコネクションはゼロ。

盤石の陣を敷く黒川サイドの票田を、どこからどういうふうに切り崩して奪っていけばいいのか。

そして黒川陣営に、天才コピーライター・和田が加わったのだ。

久美の作戦

民衆党候補者が全員唱和している「政権交代」という言葉が、メディアにどう取り上げられているかいち早く分析することも重要なポイントになっていた。

投了日までにこの四文字を広げ、定着させれば、民衆党は勝てる。

久美はそう踏んでいる。

だから党首であろうが新人候補であろうが、「政権交代」を目標に掲げ、スピーチの中ではこの言葉をもっとも重要なキーワードとして登場させること。

それを民衆党全候補者のスピーチの基本とした。

久美は、「支持政党アンケート」と書かれた新聞をこと葉の目の前にかざした。

進展党は44%、民衆党は38%。落胆すること葉に、「そこじゃなくてここ」と久美の指先が「支持政党ーない61%」の部分を指している。

まだどの政党に一票を入れるかを決めていない『浮動票』を根こそぎ奪い取ることができれば、政権交代は現実のものとなる。

久美はそう断言した。投票率を過去最高に押し上げる。

目標は、少なくとも七割。

そうすれば、必ず民衆党は勝つ。

投票率が上がる、ということは、浮動票が動く、ということだ。

いままで政治政党に興味がなかった層。どうせ与党は変わらないんだろう、と思い込んでいた人々。

自分の一票なんて意味も重みもない、とあきらめていた有権者。

この国を変えることに、関心も、興味も、情熱も持たなかった国民。この民衆を一気に動かすのだ。

緊急事態

平成鎌倉の陣。そう呼びたいくらいに、厚志が立候補している選挙戦は、猛烈にヒートアップしていた。

立候補者は厚志を含めて六名だったが、実質的には「黒川常治VS今川厚志」の一騎打ち、と言ってよかった。

黒川氏は短くわかりやすいフレーズを毎度連呼し、「あなたを守る、国民を必ず守る、きっときっと守ります!」と盛り上げる。

ウケのいい助っ人のスピーチを和田が準備し、黒川氏にはわざと多くを語らせない。

とにかく好印象を残し、メディアにもウケのいい演出をしているのだ。

これが和田の戦法だ。

厚志ははたから見ても、かなり疲れているのがわかった。

日中は炎天下を走り回って、夜には会議やスピーチの準備が続く。

まさに寝る間もなく活動している。

帰りの車に乗り込んでからも、厚志は助手席で、こと葉と一緒に作った原稿に視線を落として、明日の支援集会でするスピーチをぶつぶつと復唱していた。

厚志と別れて帰路に着くと、再び厚志から着信があった。

「恵里の容態がおかしい」と。

国の抱える問題

厚志に呼び戻されてこと葉がマンションに到着したとき、ちょうど救急車が発車するところだった。

その救急車には、厚志と妊娠五ヶ月の恵里が乗せられていた。

救急車は厚志の自宅からそう遠くない病院に到着するはずだった。

ところがそのすぐそばを通り過ぎ、ひとつ遠くの救急病医院へと向かう。

が、そこもまた素通り。

さらに遠くの病院へ、また遠くへ。

ようやくみつかった搬送先に落ち着くまでに、6時間が経過していた。

ーーー子供は、助からなかった。

勝負の日

同日、今川厚志決起集会。

ほんとうは、一分一秒でも長く恵里のそばにいてあげたかったはずだ。

けれど、今日を勝負の日と決めたのだろう。

心配して駆け寄るスタッフたちに向かって厚志は笑顔を見せた。

「ご心配かけてすみませんでした」「この先も、一緒に闘い抜きましょう」と。

スタッフ全員、大きな拍手でそれに応えた。

こと葉は、いつしかたくましい戦士となった幼なじみと、きっとその背中を押して送り出したに違いない彼の妻を、心か誇りに思った。

大切な家族が病院をたらい回しにされたことで、国が抱える医療機関の問題がどれだけ根深いか、それを包み隠さず聴衆に訴える。

有権者を味方につける。

こと葉はついさっき仕上がったばかりのスピーチの最終稿を頭の中ですばやく反芻し、高速で手を加えた。

このスピーチで厚志に、民衆党に勝利を。

流れを変える

厚志のスピーチがYouTubeにアップされ、記録的なアクセス数を弾き出した。

「君のスピーチはチャンスを作り、世界を変える」という、日本語と英語のタイトルがつけられ、厚志の十二分にわたるスピーチには、英語の字幕がつけられていた。

そのため大統領選で盛り上がるアメリカからも、多くのアクセスと励ましのコメントが寄せられ、ちょっとしたムーブメントの様相になっていた。

いったい誰が、こんな手のこんだ応援を仕掛けてくれたのか。

こと葉にはわかっていた。

和田以外には、考えられなかった。

久美いわく、あのスピーチがすべての流れを変えた。

厚志の体験した苦難を勇気をもって告白し、自分に非があったり、不利な状況ならそれを素直に認め、受け入れる。

そこから、次にどうすべきか、理想、そして具体案を語って、スピーチを展開する。

そうすることで、聴衆は語り手の身の上を思いやり、また、自分の苦難や悲しみや非を語り手に重ね合わせる。

語り手と同調しながら、これからどうすべきか、一緒に考えてくれる。

だから厚志が思い切って自分の体験、しかもその日の朝に起こったことや、父親に対するコンプレックスを告白したことが、結局は聴衆の心をつかむことになったのだ、と。

戦後初めての政権交代。

歴史的瞬間に日本中が沸き返る。

ライターのコメント

「言葉のプロフェッショナル」という文に鳥肌が立った。

私は日々、言葉の壁にぶつかることがある。

同じ日本人なのに、思うように伝わらなくて歯痒い思いをしてしまう。

しかし、本書は言葉で人の心を動かす。耳で聞き、自分の出来事と重なるように想像させ、同調する。

想像が広がると、もう心は掴まれている。

きっと、読書が好きな方は、自分に響く言葉を探し求めている方が多いと思う。

本書を読んで、心を動かすスピーチを手に取って読んでほしい。

本書を読み終えたときに、心が豊かになっているはずだ。

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