【ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件】

インフォメーション
題名 | ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 |
著者 | 楠木 建 |
出版社 | 東洋経済新報社 |
出版日 | 2010年4月 |
価格 | 3,300円(税込) |
大きな成功を収め、その成功を持続している企業は、流れと動きを持った「ストーリー」として戦略を組み立てている。多くの事例をもとに競争戦略の思考パターンを解き明かす。
引用:東洋経済新報社
ポイント
- 戦略の優劣の基準はどこにあるのか、また優れた戦略の条件とは何か。それは、戦略が「ストーリーになっているか」ということである。そこに生き生きと動く「ストーリー」が見えるかどうかが、戦略の優劣の基準なのである。
- 自分が面白いと思えること、その戦略に関わる社内外の人々を面白がらせて、興奮させ、彼らを突き動かす力を持っていること。これは戦略が成功するための絶対条件である。
- どんな実務家であっても本当の意味での「直感」で場当たりに判断し行動しているわけではない。優れた実務家は、必ずといっていいほど何らかのフォームを持っており、それを「野生の勘」の源泉として大切にしているはずだ。
サマリー
ストーリーになっているか
著者は、経営大学院(ビジネススクール)で研究と教育を仕事にしているため、さまざまな業界や会社の方から、戦略について論議をしたり助言をしたりする機会がある。
そうした場では、どうも面白くないと感じる「戦略」が多いようだ。
ここで問題にしているのは、プレゼンテーションの仕方とかデータ不足というような表面的な話ではなく、戦略の中身そのものについての優劣である。
では、戦略の優劣の基準はどこにあるのか、また優れた戦略の条件とは何か。
それは、戦略が「ストーリーになっているか」ということである。
そこに生き生きと動く「ストーリー」が見えるかどうかが、戦略の優劣の基準なのだ。
優れた戦略とは、思わず人に話したくなるような面白いストーリーである。
これは、戦略の「当たり外れ」ではなく、あくまでも「優劣」のこと。
戦略が優れていても失敗することはあるので、未来は誰にもわからないが、それでも優れた戦略を持つことには大きな意味があるのだ。
3割バッターを目指す
戦略の「当たり外れ」と「優劣」を掛けあわせると、以下の4通りの組み合わせが考えられる。
A、戦略が優れていて、結果においても成功した
B、戦略は優れていたけれども、結果的には失敗した
C、戦略は優れていなかったけれども、結果的には成功した
D、戦略が優れておらず結果においても失敗した
「当たり外れ」で見れば、AとCが成功で、BとDが失敗である。
大前提として、現実のビジネスでは、成功よりも失敗の方が間違いなく多いものだ。
たとえば、野球は3割打てれば名打者であり、4割打つ選手はほとんどいない。
つまり、優れた戦略があっても結果から見れば7割はBで、 Aに該当するのはせいぜい3割といったところであろう。
いくら戦略が優れていても、いきなり8割とか9割の打率は実現できないのだ。
その一方で、2軍のベンチを温めているようなバッターでも、1軍の試合にずっと出続けていれば、運とタイミングで1割5分ぐらいの打率は残せるだろう。
この、1割5分や運良く出た一発がCに該当する。
放っておいたら2割以下にとどまる打率も、何とか3割、できれば3割5分までもっていけるようにするのが、戦略に与えられた仕事なのである。
「ストーリーがある」とは
著者は以前、ガリバーインターナショナルという会社の戦略を、村田育夫さん(当時の代表取締役副社長)から伺う機会があった。
ガリバーは中古車流通に画期的なストーリーを持ち込み、大きな成功を収めた企業である。
当時のガリバーは今と比べれば小さな会社だった。
中古車業界やガリバーという会社についての予備知識がほとんどなかった初対面の著者に対して、村田さんは自分でも面白くて仕方がないという様子で、実に楽しく話をしてくれたのだ。
自己紹介もそこそこに、村田さんはいきなりガリバーの戦略ストーリーを語り始めた。
「こういうことをやると、こうなっていって、そうすると、ほらこういう動きが出てくるから、こんなことができるようになると思うんだけど、どうよ⁉」という感じで、前へ前へと流れるように話が進んだ。
村田さんの話を聞きながら、業界素人にも戦略ストーリーが動画としてはっきり見えて、知的好奇心をかき立てられ、思わず論理に引き込まれてしまった。
通常は戦略が静止画の羅列で終わってしまい、戦略が「項目別アクションリスト」として放置されてしまうのだ。
これでは、戦略を作るという仕事がつまらなくなってしまうのは当たり前かもしれない。
自分が面白いと思えること、その戦略に関わる社内外の人々を面白がらせて、興奮させ、彼らを突き動かす力を持っていること。
これは戦略が成功するための絶対条件である。