【メーター検針員テゲテゲ日記】

インフォメーション
題名 | メーター検針員テゲテゲ日記 |
著者 | 川島 徹 |
出版社 | 発行 三五館シンシャ/発売 フォレスト出版 |
出版日 | 2020年6月 |
価格 | 1,430円(税込) |
「あとで来てよ」
「えっ」
「あとで来いって言ってるだろう!」
今日は332件ある。やっと82件目である。同じ家に二度も来るほどのんきなわけにはいかない。
あんたね、こっちはそんなのんきな仕事をやっているんじゃないんだよ、と言いたかったが、指先は震えていた。
――私は10年間を電気メーター検針員としてすごした。その経験を書いたのが本書である。
引用:フォレスト出版
ポイント
- 検針地区には稼げる地区と稼げない地区がある。稼げる地区では1日2万円以上、稼げない地区では8000円ぐらいにしかならないのだ。
- 私は東京のある外資系企業で働いていたのだが、物書きになりたくて会社を辞めた。高校生の頃から少しずつ書き続けた短編小説を、会社勤めをしながら書くことができなかったのである。
- 家の新築現場で材料の板を踏んでしまい、真新しい板材に泥の靴跡がついてしまった検針員がいた。その後、建築業者から汚れた板材の弁償を請求されたのだ。
サマリー
稼げる地区、稼げない地区
検針地区には稼げる地区と稼げない地区がある。
稼げる地区では1日2万円以上、稼げない地区では8000円ぐらいにしかならないのだ。
たとえば大型マンションなどは、1棟で100世帯ぐらい入っているところもあり、電気メーターは各戸の決まった場所に配置してあるので、ラクに検針ができる。
だが、最近ではオートロックの普及でマンションへの出入りが難しくなってきている。
検針がやりにくいのは山があり、畑や田んぼが広がる田舎である。
家があまりに点在している地区では僻地と規定して、検針料が5円ほど高く設定されている。
しかし僻地では、バイクでまわっても件数は稼げない、時間はかかる、ガソリン代はかかるで、とても5円の割り増しでは採算がとれないのだ。
戸建ての住宅団地も、門の開け閉めがあるので検針しにくい。
戸建てを300軒ほど検針するが、ざっと600回、門の開け閉めをすると手先が痛くなってくる。
素直に開閉できるならいいが、門の上下にフックがあったり、フックが壊れていてヒモでぐるぐる巻きであったりすると面倒きわまりない。
元どおりにヒモでぐるぐる巻きにするが、少しでも手抜きをすると、苦情の電話が入ることになるのだ。
外資系企業から検針員へ
私は東京のある外資系企業で働いていたのだが、物書きになりたくて会社を辞めた。
高校生の頃から少しずつ書き続けた短編小説を、会社勤めをしながら書くことができなかったのである。
40代半ばで退職し、自由の身となった私は、たくさん小説を書きたくて意気揚々としていたが、それは最初の1週間だけだった。
その数ヶ月後、一緒に生活していた女性も失って、日々、孤独に取りつかれるようになっていた。
そのころ、夫を亡くして独り住まいになっていた姉の家に転がり込んだが、仕事のあてがない私がくることに姉は戸惑っていた。
だが、夫を亡くしたショックで体調を崩していたこともあり承諾してくれたのだ。
家賃も払い、生活費も半分払っていたので、私の貯金は確実に毎月12万ずつ減り、いよいよアルバイトを探し始めた。
そんな時、東京で文学教室を受講したとき、同じ教室の男性が電気メーター検針の仕事をしていると話してくれたことがあった。
彼は月15日ほど働き、25万円くらい稼いでいると言っていた。
「だいたい15時過ぎに終わるんです。日によってはお昼過ぎに終わることもあるかな」、自由な時間が結構あると言っていた。
私は月に10日働き、最低限の生活費を稼いだ後、20日は自分の時間にしようと考えた。
その時の私は50歳、以降、10年にも及ぶ電気メーター検針員生活はこうして始まったのである。
とんでもない客との遭遇
家の新築現場で材料の板を踏んでしまい、真新しい板材に泥の靴跡がついてしまった検針員がいた。
その後、建築業者から汚れた板材の弁償を請求されたのだ。
錦江サービス興業(検針員業務委託会社)の社員とともに謝罪にいき、弁償するということで話がついたが、錦江サービス興業は業務委託の検針員にはなんの補償もしてくれない。
たしか10万円ほどだと聞いたが、検針員は自腹で払った。
もっと怖いことがある。
数年に1度、ブレーカーの調査が行われる。
登録されているアンペア数と現状のアンペア数が一致しているかどうかの調査で、家の中に入ってブレーカーを見なければならない。
やれる範囲で調査すればいいのだが、1件250円の手当が支給されるため、またとないチャンスにみんなが頑張るのだ。
ある検針員はとんでもないお客に遭遇してしまった。
家に上がり、ブレーカーを確認し、挨拶をして帰ろうとした時、家人の男性に呼び止められた。
「ちょっと待て!あんたカーペットの上を歩いたよね」
「はい」
「その靴下は何だ!汚れてるじゃないか。このカーペットは300万円もするんじゃ」
家人の男性は、カーペットをフランスから特別に取り寄せたことなどを話し、クリーニング代として100万円を請求した。