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インフォメーション
題名 | レモンと殺人鬼 |
著者 | くわがきあゆ |
出版社 | 宝島社 |
出版日 | 2023年4月6日 |
価格 | 780円(税込) |
登場人物
・小林 美桜(こばやし みお)
主人公。大学職員として働いている。妹の死の真実を探っていく。
・小林 妃奈(こばやし ひな)
美桜の妹。死後、保険金殺人の疑いをかけられる。保険外交官として働いていた。
・佐神(さがみ)
小林姉妹の父親を殺害した犯人。
・銅森 一星(どうもり いっせい)
妃奈のかつての恋人。筑野バルという飲食店を経営している。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
①物語の始まり
妹の死
妹が遺体で発見された。
大学職員として働く美桜にとって肉親を失うのは初めてではない。
10年以上前、父親を当時14歳の少年に殺されてから彼女の人生はずっと暗く、虐げられてきた。
亡くなった妹とは数ヶ月に一度顔を合わせては互いの不遇を嘆き合っていた。
それ以上でもそれ以下でもない関係だったため、妹の死因や人間関係について、妹の死後に徐々に知っていく美桜。
ある日、マスコミ関係者が美桜の元を訪れる。
なんと、保健外交官として働いていた妹は保険金詐欺の疑いをかけられていた。
それと同時期に美桜は勤める大学の生徒である桐宮証平という男から、放課後クラブの「そのあとクラブ」の手伝いを頼まれていた。
いい副業になると思った美桜は承諾し、仕事終わりに桐宮と共にそのあとクラブの活動に参加する。
そこにはかつての中学の同級生・海野真凜も参加していた。
②物語の目的
妹の過去
妹は生前、筑野バルという人気店を経営する銅森という男と交際していた。
銅森は自身が保険金詐欺に遭いそうになったと公表する。
それを勧めたというのが妹の妃奈ではないかと噂が立ったのだ。
妹はその前に付き合っていた川喜多という男性にも同じように保険を進め、受け取り人を自分にしていた。
実際にその男性が事故で亡くなったことで妹は多額の保険金を受け取ったという。
このことから世間は妃奈を保険金殺人の容疑者として見始めていた。
妹がそんなことするはずないと思った美桜は銅森の会社を訪ねるが門前払いをされる。
さらにそこで居合わせた記者に絡まれた美桜を1人の男性が助ける。
それは美桜の中学の同級生・海野真凜の彼氏である渚銅森だった。
③目的達成までの物語の場面
銅森と妃奈
ジャーナリスト志望だという丈太郎は妃奈の潔白を証明するために協力すると美桜に提案してくる。
美桜は丈太郎と共に銅森について調べていく。
すると、銅森の幼なじみである金田という男から捜査を中止するように脅される。
金田からの忠告を無視し、銅森との直接の接触を図る美桜。
すると、銅森が現れて追い払われる。
その後、美桜と銅森は謎の3人組の男に絡まれる。
恐らく銅森の手先だろうと思っていた矢先、美桜の元に「情報提供がしたい」というショートメッセージが届く。
妃奈の本当の姿
情報提供者に指定された場所に向かうと、そこにいたのは金田だった。
金田は自分と銅森が地元ではドブ街と呼ばれるところの出身であることと、そこで筑野バルを興して必死に働いていたことを話す。
経営難で苦しんでいたかつての銅森を支えたのが妹の妃奈だったのだ。
妃奈は弱気になっていた銅森に「私のためにも頑張って」と励ます。
その甲斐あって銅森は持ち直したのだが、今では金の亡者となっており、筑野バルを守るために外野の人間を消すことさえ厭わないという。
そのため美桜たちに警告していたのだ。
金田からの情報提供を公表するか迷っていたところ、「鹿の子育英財団」という団体から美桜の元へ電話がかかってくる。
内容は妃奈が受け取っていた保険金三千万円を全て財団に寄付していたということだった。
妃奈の潔白がわかり、安堵する美桜。
しかし、再び知らない番号から連絡がかかってくる。
相手は警察で、行方不明になっていた母親が遺体で発見されたと言う知らせだった。
④物語の締めくくり
事件の終焉
妹と母が亡くなったことと、鹿の子育英財団が寄付を公表したことで妃奈へのバッシングは無くなり、擁護する声が上がった。
しかし、美桜にはまだ心配事があった。
かつて父を殺した犯人・佐神が所在不明となっていることだ。
美桜は妹と母を殺したのは佐神ではないかと推測していた。
だとすれば、次に狙われるのは自分だ。
実際、すでに勤め先の自分のロッカーに鶏の死骸を入れられるという悪戯も発生していた。
美桜は佐神の手がすぐ近くまで迫っていることを知る。
出所した佐神は現在20代。
美桜は周りの人間で該当者がいないか考える。
そのあとクラブに誘ってきた桐宮、妃奈の調査に加担してきた丈太郎。
怪しいのはその2人だが、佐神はその2人ではなかった。では、誰が佐神なのか。
それは、美桜が毎日出社時に挨拶をしていた守衛の男だった。
佐神の正体
男は佐神逸夫と名乗った。
なんと男は美桜の父を殺害した少年の父親だった。
佐神逸夫は物心ついた時から刀で人を斬ってみたいという欲求に駆られていた。
自分の息子が殺人を犯した時も血は受け継がれるのかと妙に納得したという。
息子が出所してまもなく、佐神逸夫の元を妃奈が訪れた。
妃奈は息子の翔を殺害したとしてその証拠を突きつけにきたのだ。
それならばもう自分を縛るものはないと容赦なく妃奈を手にかけた逸夫。
母を殺害したのも逸夫だった。
近親者であれば、骨格が似ているため綺麗に切れるはず。
すでに母と妹を斬ったことで感覚は掴んだという逸夫を前に美桜はあることに気づき、逸夫に立ち向かう。
自分は虐げられてきたけれど、本当は虐げる方になりたかったのだと。
ライターのコメント
「登場人物全て怖い」本書を読んでそう思った。
書ききれていないが、全ての登場人物のエピソードが複雑に絡み合っており、後半部で突然全てのパーツが噛み合っていく。
本書タイトルにあるレモンは父の経営していたレストランの看板メニューであるチキンステーキに重要な素材であったことが記され、美桜が鶏肉が苦手なこともこの料理に起因している。
後半からのスピード感に思わず一気読みしてしまった。
あまりの情報量の多さに混乱してしまったが、二度目に呼んだ際にその伏線の多さに感嘆した。
ぜひ二度、読んで欲しい。