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【ぎょらん】

読むのに必要な時間 約 7 分

目次

インフォメーション

題名ぎょらん
著者町田そのこ
出版社新潮社
出版日2018年10月31日
価格1,815円(税込)

登場人物

・御舟朱鷺
 引きこもり。ぎょらんを口にしたことがある。

・御舟華子
 朱鷺の妹。

・喜代
 元保育士。石井の子どもの担任をし、事故で死亡させてしまう。

・石井春子
 葬儀場勤務。亡き真佑の母。

・七瀬
 高齢者施設勤務。

・笹本小紅
 インテリアコーディネーター。朱鷺の同級生。

・斉木葉子
 朱鷺の同級生。小紅の親友。実の母親に殺害される。

・蘇芳
 朱鷺の同級生、親友。自死する。

・石井芳年
 「ぎょらん」の作者。石井春子の夫。

あらすじ

※一部、ネタバレを含みます。

※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。

ぎょらん

朱鷺は華子のふたつ上の兄。

三十歳で、無職の職歴なし。

大学を半年足らずで中退してからずっと家で引きこもっている。

趣味は漫画の収集。

華子が疲れて家に帰ると、朱鷺が暴れていた。

理由は、母が本を捨てたからだ。

その中にあった1つの短編集がとても大事だったらしく、“ぎょらん”という漫画だった。

朱鷺はぎょらんは本当にあると言う。

「俺は本物を見たし、喰ったからな」大学一年生の時、朱鷺の親友が死んだ。

親友の右手にぎょらんを見つけ、食べたのだという。

朱鷺が引きこもりになったきっかけは、親友の自死だった。

親友がぎょらんで見せたものに、朱鷺は今も悩んでいる。

夜明けのはて

朱鷺は葬式場で働き始める。

先輩の相原に叱責されながら、奮闘していた。

喜代の夫が死亡した。死因は胃癌。

小さな家族葬にするのが夫の望み。

相原と連れ立って現れたのは、喜代がもう一生顔を合わすことはないだろうと思っていた人、石井だった。

石井は、喜代が保育士の時に、事故で死亡した真佑くんの母親だ。

真佑くんは、とてもやんちゃですばしっこくて、負けん気が強くて、少しだけ向こうみずなところがあった。

そのせいで怪我は絶えなかった。

危ないと言われても、やらずにはいられない子だった。

ジャングルジムのどの高さから飛び降りることができるかというチキンゲームを園児たちが始めて、ひとりの子が怪我をしたことから遊ぶのを禁止させた。

預かり保育終了間際のこと、真佑くんがいなくなり、ジャングルジムの中ほどで、首を吊っていた。

ジャンプをした拍子に、通園バックがジムに絡みついていた。

朱鷺の全く世間ずれしていない違和感が気になり、喜代が問うと、ニート生活でずっと引きこもりをしていたことを話す朱鷺。

喜代自身も、真佑くんの死後、引きこもりになったので二人は話し込む。

朱鷺が引きこもり中に漫画ばかり読んでいたことを知り、夫から聞いたことがある漫画について質問する喜代。

その漫画はぎょらんだった。

「死んでもなお、伝えたいこと、遺したいことが死んだ瞬間に『ぎょらん』という形を成す」と朱鷺に教えてもらう。

『自分の選んだ道が正しかったのか、ましてや赦されるのなんて、精一杯のことをして死んだあとにしか分からないことだ』

喜代には、ぎょらんがなくても夫が何を遺すのかが分かった。

あおい落葉

小紅はタイムカプセルを取りに故郷へ帰る。

学校へ行く道中で同級生とたまたま会い、蘇芳が自死していたことを初めて知る。

蘇芳は葉子のことが好きだった。

だから葉子と仲のいい小紅と、蘇芳と親友である朱鷺と四人で遊ぶことが多かった。

四人に亀裂が入ったのは、葉子が朱鷺に好意があると宣言したから。

定刻になったが朱鷺の姿はない。

タイムカプセルの手紙が幹事によって配られる。

「斉木、葉子…」一瞬で、みんなの顔が強張る。

沈黙を裂くように私が貰うと言う小紅。

葉子は、もうこの世にいない。葉子は実の母親に殺された。

殺害理由は、葉子が母親の恋人を奪ってしまったから。

「蘇芳、くん」幹事がまた言いにくそうに名を呼んだとき、朱鷺が現れる。

朱鷺は蘇芳と自分の手紙を掴み、踵を返して校門へ向かう。

慌てて小紅が追いかける。

葉子の手紙には小紅への恨み言葉が書いてある、と言う小紅にびっくりする朱鷺。

さらに小紅は葉子のぎょらんを見たと言う。

珠に気付いたのは、小紅だけで、小紅にしか見えていなかった。

そう気付いた時、思い出したと言う。

朱鷺に教えてもらった漫画と一緒だ、と。小紅はぎょらんを潰した。

葉子と小紅は周りから見たら親友に見えた。

しかし、本当は葉子の束縛が激しかった。

他の友達を作ることをとても嫌がり、いつも葉子の傍にいることを強要した。

気付けば葉子の顔色を窺って行動するようになり、葉子の我儘もエスカレートし、友達を辞めたいと思った頃には、小紅の傍には葉子しかいなくなっていた。

葉子が朱鷺のことを本当は好きではないことを小紅は分かっていた。

蘇芳が親友と好きな子の間でとても悩んでいる、親友に嫉妬してしまう自分に苦しんでいることは、見て取れた。

しかし葉子は、友情よりも愛情を取るのかどうか蘇芳を試していた。

小紅と葉子は喧嘩し、そのまま葉子は殺された。

葉子の死後、明るみに出たのは葉子の母はネグレクトだったこと。

食事の用意は気まぐれにしか与えてもらえず、お金を貰うために母の恋人に、体を開いた。

朱鷺に葉子の話をしたのは、朱鷺が蘇芳のぎょらんを見て口にしたんじゃないかなと思ったからだ、と言う小紅。

高校時代の一年ほど、小紅と蘇芳は付き合っていた。

葉子の名を口にして、思い出を語り合えるのは二人だけで、一緒にいる時間が増えたからだ。

蘇芳は醜い自分の心が許せなかった。

そんな自分が憎くて堪らなかった。

朱鷺さえいなければって思う自分を蘇芳は殺したのだ。

しかし、蘇芳のぎょらんで朱鷺が見たものは、朱鷺を殺したいくらい憎んでいたものだ。

ぎょらんとは一体、何なのか?

珠の向こう側

朱鷺と華子の母が倒れた。

癌が全身に転移して、原発巣も分からない。

余命は半年。

母の病気を知った朱鷺は、再び引きこもりに戻った。

会社も休職。母の見舞いにも行かない。

パソコンでぎょらんのことばかり調べていた。

七瀬と知り合ったのはたまたまだった。

七瀬の想い人が、母の隣の病室にいた。

彼もまた母と同じ末期の癌を患っていて、癌治療と緩和ケアを並行して行なっている。

見舞いにやってくる七瀬と家族談話室で一緒になったことをきっかけに話をするようになった。七

瀬が朱鷺のことを知っていたのも偶然だった。

母の意識が無くなった。

慌てて家に帰り朱鷺を病院へ連れて行く。

「お願いだから、もうぎょらんのことは忘れて」華子は怒り狂った。

仲裁に入ってくれた七瀬。

七瀬は朱鷺を見て「ぎょらんを食べたんですね」と納得がいったように頷いた。

「ぎょらんは私の叔父が描いた漫画です」

七瀬の叔父は二年前に他界。

ぎょらんの正体を知っている人のところへ連れて行ってもらうことになる。

叔父の石井芳年は、朱鷺の葬儀場で一緒に働く石井春子の夫だった。

ぎょらんの正体…ぎょらんとは朱鷺本人が作りだしたものだと言う。

死を前にしたとき、残された者は無力。

きっとこうであってほしい、こうであるに違いない、そういう願いや祈り、思いの結晶がぎょらんなのだ。

憎まれていると思う人は、憎しみ。

怒っていると思う人は、怒り。

愛されていると思う人は、愛のぎょらんをつくる。

石井は息子を亡くしている。

息子の真佑くんはぎょらんをふたつ作りだした。

たまたま夫が目を離した少しの間に、自分の不注意で我が子を死なせてしまったことを深く嘆き悲しんだ夫が口にしたぎょらんは、真佑くんからの夫に対する怒りだった。

もうひとつのぎょらんは、石井が口にした。

真佑くんとの思い出がたくさん溢れ、愛に溢れていた。

ぎょらんは「自分の心が生み出したものだ」と聞いて、朱鷺はその場から逃げ出した。

五日後、母の意識が戻った。朱鷺は母の病室へ行き、枯れ木のような母の手を握り、朱鷺の長い告白をする。

蘇芳は第一志望の大学に落ちたこと、そこは朱鷺の通っていた大学だったこと。

朱鷺に対する対抗心や愚痴が増え、「お前はいいよな」と事あるごとに言うようになり、それが朱鷺の重荷になっていたこと。

だから蘇芳に「俺を意識して生きて楽しいか。お前の人生、ずっと俺を羨んで終わるのか」と言ってしまったこと。

それから数日後に気持ちを聞いてほしいというメールが蘇芳から来たが、この日に行くと返信したのに行かなかったこと。

その日に、蘇芳が自殺したこと。

朱鷺が引きこもりになって、何年目かに母と朱鷺は約束をしていた。

自分なりの乗り越え方を見つけ、いつかどんなものに苦しみ、どんなことを考えていたのか教えてほしいと。

朱鷺は母にやっと今の答えを話せた。

翌朝、母は静かに逝った。

母の葬儀で、朱鷺と華子は母のぎょらんを見た。

うつくしい赤をしていた。

ふたりで見入っていると、珠の中に母の笑顔を見たような気がした。

これから頑張んなさいよね、そんな言葉さえも聞こえた気がする。

ライターのコメント

町田そのこさんらしい、ストーリーが繋がっていく構成で魅了された。

同じ母として、朱鷺の母親の寛大な心に尊敬する。

子どもの悩みに対して、なんでも聞いたらいいってものじゃない。待つことの大切さを教わった。

エンディングノートのイメージも本書を読んでガラッと変わった。

死について考えることって“縁起でもない”って思いがちだけど、残された遺族に対しての思いやりでもある。

素敵な葬儀をすることは、故人の供養にもなり、遺族の気持ちも救われることに繋がるんだなと思った。

死について考えると、生にも向き合える。

自己啓発本よりも、もっと生きることについて深く学べた本でした。

※本記事のセリフ部分については、紹介している本書より引用しています。

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