【八日目の蝉】
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読むのに必要な時間 約 4 分
インフォメーション
題名 | 八日目の蝉 |
著者 | 角田 光代 |
出版社 | 中央公論新社 |
出版日 | 2011年1月 |
価格 | 649円 |
登場人物
・野々宮希和子(ののみやきわこ)
同僚だった秋山と不倫関係にあった女。恵理菜を連れ去り、宮田京子と名前を変えて逃避行を続ける。
・秋山恵理菜(あきやまえりな)
秋山夫妻の娘だが、希和子に誘拐され、薫(かおる)として幼少期を過ごす。
・秋山丈博(あきやまたけひろ)
娘をさらわれて慌てるが、同時に希和子との不倫が世間にばれるのを恐れている。
・秋山恵津子(あきやまえつこ)
丈博の嫁。夫の不倫相手である希和子を恨み、彼女に嫌がらせをする。
・安藤千草(あんどうちぐさ)
宗教施設で幼い恵理菜と知り合い、その後再会する。施設ではマロンと呼ばれていた。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
逃避行の始まり
秋山丈博との不倫関係にあった野々宮希和子は、ある日、秋山夫妻の家に侵入する。
妊娠と中絶をして子供が産めなくなってしまった希和子は、自分が腕に抱くはずだった赤ちゃんの姿を一目見たいだけだった。
しかし、恵理菜が自分に笑いかけてきたことで思わず連れ出してしまう。
希和子は誘拐犯となり、各地を転々とする生活が始まる。
その後、恵理菜に「宮田薫」という名前をつけて、自分は「宮田京子」と名乗り、さらに遠くへと逃亡する。
宗教施設での出会い
希和子は逃亡先で「エンジェルホーム」という団体と遭遇する。
エンジェルホームは女性だけの宗教団体で、警察が自分たちを探していることを知った希和子はそこに身を寄せる。
そこで、幼い恵理菜はマロンと呼ばれている少女・安藤千草と仲良くなるのだった。
しかし、宗教団体への弾圧が厳しくなり、ついにエンジェルホームにも警察の手が及ぶ。
誘拐がバレてしまうと思った希和子はエンジェルホームを離れ、小豆島へと向かった。
小豆島での生活
希和子はエンジェルホームで知り合った沢田久美という女性の母親が、小豆島で蕎麦屋をやっていたのを思いだし、そこへ向かう。
そしてそこで働きながら静かに暮らしていく。
しかし、小豆島での生活は長くは続かなかった。
ある日、二人は「虫送り」というお祭りに参加するのだが、そこで撮られた写真が警察に見つかり、希和子の行方がバレてしまったのだ。
ついに希和子は警察に連行され、恵理菜は本来の家へと連れ戻される。
恵理菜の生活
それから年月が過ぎ、秋山家に戻った恵理菜は大学生となっていた。
居酒屋でアルバイトをしていた恵理菜は、ある日安藤千草と再会する。
千草はエンジェルホームでの日々を本にするため、取材で恵理菜のところに来たと言うが、恵理菜は彼女を覚えていなかった。
これまで、何度も事件のことについて聞かれていた恵理菜はうんざりしたものの、千草を家へと招く。
運命の繰り返し
大学生の恵理菜は塾講師の岸田と不倫をしており、岸田の子供を妊娠してしまう。
千草の話や事件の記録から希和子のことを知った恵理菜は、自分が希和子と同じ運命を辿っていることに気づき、愕然とする。
恵理菜は、自分は希和子とは違うと思い、子どもを産むことを決意する。
その後、恵理菜は岸田と別れ、自分のお腹の中にいる子どもと向き合っていく。
思い出の地・小豆島
慣れない妊婦生活を千草は一生懸命ささえ、いつの間にか、恵理菜と千草は親友同士になっていた。
そんな2人は、あるとき旅行をすることに。
旅行先は、2人が子供の頃に過ごしたエンジェルホームや小豆島だった。
小豆島へ向かうために2人はフェリー乗り場でフェリーを待つ。
すると、恵理菜は幼い頃の記憶を思い出したのか、少しずつ小豆島での思い出を話し出す。
一方、同じフェリー場にもうひとりの女がいた。
刑期を終えた希和子だ。
希和子は現在、フェリー乗り場の近くで働いており、仕事終わりにフェリー乗り場に来るのが習慣となっていた。
お互いの存在には気づいていなかったものの、希和子は薫のことを考え、恵理菜はお腹の子供のことを考えていた。
思い出の地である小豆島で二人はつながっていたのだ。
ライターのコメント
角田光代さんの作品の中でも特に有名な本作は、1993年12月に起こった「日野OL不倫放火殺人事件」に着想を得て執筆されたもので、ドラマや映画にもなった名作である。
本作では、育ての母親と実の母親が出てくるが、恵理菜(薫)にとって、どちらに育てられるのが幸せだったのかと考えさせられた。
希和子のしたことは許されないことではあるが、子どもを失ってしまった彼女の気持ちも分からなくはない。
同時に、娘を奪われた秋山夫妻の気持ちを考えると、重たい気持ちになる。
非常にセンシティブなテーマだと思った。
恵理菜と希和子は結局再会することなく終わるが、逆にそれが味わい深いものになっていると感じた。
母性や母と子どもの話について考えたい人におすすめの一冊である。