【教養としての社会保障】

インフォメーション
| 題名 | 教養としての社会保障 |
| 著者 | 香取 照幸 |
| 出版社 | 東洋経済新報社 |
| 出版日 | 2017年5月 |
| 価格 | 1,760円(税込) |
社会保障の全体像を知るための入門書
年金は破綻しないのか。なぜ必要なのか。
年金局長、雇用均等・児童家庭局長等を歴任し、その間、介護保険法、子ども・子育て支援法、国民年金法、男女雇用機会均等法、GPIF改革等数々の制度創設・改正を担当。さらには内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめるなど、社会保障改革と闘い続けた著者による書き下ろし。
日本の社会保障制度は、大きな曲がり角に差し掛かっています。安心社会の基盤となり、社会経済の変化に柔軟に対応し、社会の発展・経済の成長に貢献できる社会保障制度の構築は、これからの日本にとって必須の改革だと私は考えています。(中略)年金制度や医療制度を始めとする社会保障の諸制度は、市民一人ひとりの自立と自己実現を支えるための制度です。現代社会にあって、個人の自己実現を通じた経済の発展と社会の活力、そして市民生活の安定を同時に保障するサブシステムとして、人類が考え出した最も知的かつ合理的な仕組みであり、社会にとっても個人にとってもなくてはならない制度です。本書が、私たちにとってなくてはならない社会保障と、その社会保障制度が置かれている現状について理解するための一助になれば幸せです。(「はじめに」より)
引用:東洋経済新報社
ポイント
- 「できるだけ分かりやすく、1人ひとりの生活に関わるもの、という社会保障の基本をベースに、社会保障の全体像、社会保障と経済や政治との関わりを『市民目線』で解き明かし、社会保障をある種の『一般教養』として理解していただこう、というのが、本書の主旨です」
- 著者は、「社会保障は『自助を共同化する仕組み』」であると表現する。
- 著者は、年金制度や医療制度をはじめとする社会保障の諸制度を「市民一人ひとりの自立と自己実現を支えるための仕組み」と定義し、個人にとっても社会にとっても欠かすことのできない存在であると述べる。
サマリー
音声で聴く
「一般教養」としての社会保障
社会保障は、日本社会の中で生きていく上で「揺りかごから墓場まで」といわれるほど密接な関わりがある。
しかし、制度としての社会保障制度は複雑で規模が大きく、全体像を理解しているのは専門家や識者などに限られているという。
本来、社会にとっても、個人にとっても身近で欠かせない制度であるにも関わらず、正しく理解されていないという現状を打開すべく著されたのが本書である。
著者は述べる。
「できるだけ分かりやすく、1人ひとりの生活に関わるもの、という社会保障の基本をベースに、社会保障の全体像、社会保障と経済や政治との関わりを『市民目線』で解き明かし、社会保障をある種の『一般教養』として理解していただこう、というのが、本書の主旨です」
つまり、一部の専門家や識者だけが正しく知る「制度」としてではなく、社会保障に関わるすべての人が知るべき「一般教養」という位置づけで書かれている。
著者は、社会保障が理解されない理由として、「合理的無知」と「教育の欠陥」という二点を挙げている。
「合理的無知」とは、社会保障は政治や専門家に任せておき、自分の生活のために時間を使えばよいというような合理的な判断からくる「無知」のことだ。
「教育の欠陥」とは、日本の公教育の中で社会保障を理解するための認識が形成されていないことを指摘する。
著者の指摘通り、日本社会の中で「社会保障」を正しく理解することには高いハードルがあるように感じる。
だからこそ、本書が提示する「教養としての社会保障」という視点は、私たちが社会をどう生きるかを考える出発点となる。
「社会保障」のしくみとは
日本の社会保障では、国民が自立し「自助」を基本としながらも、病気や事故、失業など、個人の努力だけでは避けられないリスクを社会全体で分かち合う「共助」の仕組みがある。
著者は、「自助のない共助はあり得ない」と強調し、両者の関係を明確に示している。
もともと社会保障は、各人が自らの責任で生活を営むという前提の上に成り立つからだ。
しかし、戦後の経済構造や家族の形が変化するなかで、景気変動や雇用不安、介護や医療の負担など、個人の力ではどうにもならないリスクが増えている。
そうした現実の中で、人々が安心して暮らすための「共助」の知恵を制度として整えたものこそ、社会保障であると著者は説く。
この考え方を通じて、社会保障が「国が決めた制度」ではなく、「国民が支え合うための契約」であることが浮かび上がる。
ここでいう契約とは、法的な取り決めではなく、社会全体でリスクを分かち合うという意味だ。
著者は、「社会保障は『自助を共同化する仕組み』」であると表現する。
自助と共助の調和こそ、持続可能な社会を築くための基盤であり、その意味を“教養”として理解することの重要性が本書から伝わってくる。
社会保障制度の曲がり角
1970年代から80年代にかけて、日本は高度経済成長の終焉とともに、長く続いた「安定した雇用」の基盤を失い始めた。
さらに、三世代同居が一般的だった家族の形態は核家族へと移行し、単身世帯や一人親家庭が増加するなど、生活の単位そのものが変化している。加えて、人口は減少し、都市部への集中と地方の過疎化が進んでいる。
こうした社会構造の変化により、現行の社会保険制度の前提条件は大きく揺らぎ、支える側の人口は減り続ける一方で、保障すべき領域は拡大しているのだ。
著者は、税収が減少し、保険料が据え置かれる現状では、社会保障全体の組み立てそのものを見直さなければならないと指摘する。
生活者や労働者の個別の視点だけにとらわれていると見えにくいが、日本社会全体の変容という視点から見ると、制度を支える社会の形そのものが大きく変わったことに気づかされる。
著者が説くように、いま私たちは、社会保障の根幹を問い直す“曲がり角”に立っている。
