MENU

【介護ヘルパーごたごた日記】

インフォメーション

題名 介護ヘルパーごたごた日記
著者 佐東 しお
出版社 発行 三五館シンシャ/発売 フォレスト出版
出版日 2024年9月
価格 1,430円(税込)

 

「他人の暮らしに入り込む仕事」
訪問介護員が寄り添う、
家庭の事情、命の期限
――あなたも女優になれますか? 

「誰かのケアをする」というキャパは重い障害のある息子たちを育てるとき、いっぱいになった。かわいいからこそ苦しかった。だから、たくさんの人に助けてもらった。
介護職に就いて10年がすぎ、今度は親が認知症になり、その介護が必要になった。
息子のケアと、他人のケアと、親のケア。私は期せずして3つのケアを体験した。
――これは私の地域の、その年月に、たしかにあった実話だ。

引用:フォレスト出版

ポイント

  • 私は訪問介護事業所「にこにこにこヘルパーステーション」の登録ヘルパーである。ベテランヘルパーには、「利用者に、来てもらってよかったと思わせないとダメ」と言われた。ヘルパーは「女優」になって自分の仕事をアピールするくらいでちょうどいいということだ。たしかに一理ある。

  • 私は鼻が利く。それは介護の仕事ではなかなかつらい。年配の利用者は「もったいない」の気持ちが大きく、使用済みのリハビリパンツ(紙オムツ)すらなかなか捨てない。認知症の進んだ利用者の部屋のあちらこちらに、ぐっしょりと水分を吸ったリハビリパンツがあり、私はそのニオイに翻弄された。

  • ヘルパーの仕事には「身体介護」と「生活援助」があり、時給単価も違う。デイサービスへの送り出しと出迎えは「身体介護」なので、その場合は「生活援助」の仕事はしてはいけない。でも、寒い日、寒い部屋に送ったら、温かい食べ物や飲み物を出さずにはいられない。利用者が忘れてくれるのをいいことに、私はケアマネに内緒で“ルール違反”をし続けるのだった。

サマリー

女優にならないと

訪問介護事業所「にこにこにこヘルパーステーション」は、広島市H市に事業所を構える。

私は登録ヘルパーで、働きたい日数や曜日、時間を登録し、自由に休日も決められる。

人手不足で仕事はどんどん増え、気がつけば毎日のように入っている。

週5日、うち3日は2件、2日は4件、月収は7万円ほど。

仕事を断ることもできるが、新規の仕事が来ると、どんな人だろうという興味でつい引き受けてしまう。

「この前うかがった利用者さんのお宅で、食器を漂白しておいたんです。気づいたら喜んでくださるかな」

働き始めた頃、事務所で私がこう言うと、ベテラン常勤ヘルパーの立板さんは鼻で笑った。

「バッカじゃないの。それに気づける相手じゃないでしょ。利用者はお金払っているのよ。来てもらってよかったって思わせないとダメ。『漂白しておきましたよ』ってアピールするくらいでちょうどいいの。女優にならないとダメよ

言い方はキツいが、たしかに一理ある気がする。

もったいない

私は鼻が利く。

長所だと思っていたけれど、介護の仕事ではなかなかつらい。

久保サチ江さんは、85歳の要介護2、認知症がかなり進んでいる。

サチ江さんの部屋に入るなり、つんとしたニオイがした。

鼻が利く私には、その原因がどこかまでわかってしまう。

恐る恐るタンスの引き出しを開けると、ずっしりと重たい使用済みのリハビリパンツ(紙オムツ)があった。

衣類を使い捨てにするなど、戦争体験者には考えられないことなのだろう。

「これは捨てていいんですよ」とやんわり注意しつつ、袋に入れて外のゴミ箱に捨てる。

浴室でかがむと、突然頭に重量感がある何かが乗っかった。

手に取ると、ぐっしょりと水分を吸ったリハビリパンツ。

サチ江さんが浴室の棚に放り上げておいたものが落ちてきたのだ。

「風呂あがりに穿こうと思って」とサチ江さん。

もう1CCの水分も吸うことができないくらい満タンなのに、まだ穿こうとするのか。

年配者にとって「もったいない」の気持ちは大きい。

サチ江さんは風呂からあがり、着替えもして、用意した親子丼を食べ始めた。

……まだどこかから強烈に臭う。

ふと彼女の座る椅子に目がとまる。

「少し席を立っていただいてもいい?」

椅子の座板を上げると、中には収納空間があり、ぎっちりと使用済みのリハビリパンツが詰め込まれていた。

グレーゾーン

長谷麗香さんは、90歳の要介護1。

私は、彼女のデイサービスへの送り出しと出迎えの仕事を、週1回ずつ引き受けた。

最初、デイの出迎えでコーヒーを作って出したら、「おいしいわ」と大喜びしてくれた。

嬉しくて、次にうどんを作ったら、また喜んでくれた。

しかし、これはケアマネには絶対に内緒である。

ヘルパーの仕事には「身体介護」と「生活援助」があり、時給単価も違う。

デイサービスへの送り出しと出迎えは「身体介護」だ。

帰宅後に汚れ物を洗濯機に入れるだけでも、それは「生活援助」になるのでやってはいけない。

でも、寒い日、寒い部屋に送って、「はい、さようなら」と帰ることはできない。

温かい食べ物と飲み物を出して何が悪い。

麗香さんはみんな忘れてくれる。

私がコーヒーを出したことも、うどんを作ったことも、それを平らげたことも。

ケアマネにもほかのヘルパーにも伝わることはない。

私は安心して“ルール違反”をし続ける。

Custom Image
会員登録済みの方はこちらからログイン
自分用にレビューやメモを残しましょう!
© 音声: VOICEVOX 青山龍星(男性)、VOICEVOX NEO(女性)
今読んだ要約の感想を投稿

この要約の著者

1冊5分で読める要約コンテンツを毎月20~30の配信中!高品質で読み応えのあるコンテンツを通じた「時短読書」「書籍購入前の内容チェック」「人生を彩る本との出会い」など「新しい読書のかたち」をお楽しみください!

絞り込み検索

目次