【日本の奨学金はこれでいいのか!】

インフォメーション
題名 | 日本の奨学金はこれでいいのか! |
著者 | 奨学金問題対策全国会議/編 伊東達也、岩重佳治、大内裕和、藤島和也、三宅勝久/著 |
出版社 | あけび書房 |
出版日 | 2013年10月 |
価格 | 1,760円(税込) |
―奨学金という名の貧困ビジネス
欧米諸国に比べ際立って高い日本の教育費。にもかかわらず、高い金利の日本独特の奨学金。この10数年で「サラ金よりアコギな学生ローン」と変貌した奨学金制度。返済に苦しむ若者が急増。しかし、容赦のない取立て。そのひどすぎる実態を告発し、根本原因と改善策を解明する。困っている方の相談窓口、救済方法も提示。
「お金がなくても安心して学べる社会へ」「貧困の連鎖のない社会へ」のための必読の書。弁護士、研究者、ルポライター、学生当事者が慢心の怒りをこめて執筆。
引用:あけび書房
ポイント
- 日本での奨学金は借金であり、後で返さなければならない。奨学金利用者が増える一方で、卒業後の就職状況は悪化しているため、奨学金を返済できない人が増えているのだ。
- 2012年度に返還すべき奨学金を滞納した人は約33万4000人となった。期限を過ぎた未返還は過去最高の約925億円にもなり、滞納せずに支払っている場合でも、その重い負担は大学卒業後の結婚、出産、子育てを困難に陥れているのだ。
- 奨学金の利息収入、延滞金収入は経常収益に計上され、原資とは無関係の銀行と債権回収会社にいっている。奨学金が銀行や債務回収会社に利益をもたらす「金融事業」となっていることが分かるであろう。
サマリー
はじめに
今の日本では、奨学金を利用して大学に通うことが普通になっている。
個人が負担する教育の費用は世界に比べて日本は高額であり、さらにその額は年々高くなっているのに世帯収入が減少しているため、奨学金利用者が急増しているのだ。
日本での奨学金は借金であり、後で返さなければならない。
奨学金利用者が増える一方で、卒業後の就職状況は悪化しているため、奨学金を返済できない人が増えているのだ。
日本のように、高額な教育費を個人に負担させることが本当に正しいのだろうか。
奨学金を返せない人が増えたのは、このような社会情勢の変化と、日本政府の貧困な教育予算が大きな原因である。
教育における格差と貧困
ローンとしての貸与型奨学金の急増
無利子の第1種奨学金の返済額は、月に1万5000円以内に設定されている。
自宅外から国立大学に通う大学生の場合は月に5万1000円を借りることができるが、4年間の貸与総額は244万8000円になり、これを大学卒業後に15年かけて返済しなければならない。
月の返済額である1万3600円 を、23歳から滞りなく払い続けることができれば38歳で終了するが、毎月13,600円の返済を続けるということは決して楽ではないだろう。
この期間に、失業や病気などがあったら支払うことができなくなるかもしれない。
さらに、有利子の第2種奨学金の場合は、月10万円借りると4年間の貸与総額は480万円にもなり、これに利子3%をのせると返還総額は645万9510円にもなる。
この場合、毎月の返還額は2万6914円であり返還年数は20年、期間は結婚、出産、子育てなど、重要なライフイベントと重なる。
大学卒業後の5年間、毎月満額で返済しても、500万円弱の借金を背負っていることになり、結婚する際は、奨学金の返済をしていることが壁になってしまうこともあるのだ。
奨学金滞納者の急増と回収問題
こうした負担の重さが原因となり、2012年度に返還すべき奨学金を滞納した人は約33万4000人となった。
期限を過ぎた未返還は過去最高の約925億円にもなり、滞納せずに支払っている場合でも、その重い負担は大学卒業後の結婚、出産、子育てを困難に陥れているのだ。
これだけ奨学金返還が重くなっている一方で、日本学生支援機構は2010年8月に「債権管理部」を設置し、回収の強化を進めた。
延滞が4カ月に達すると、延滞債務の回収を「延滞回収専門会社」に委託される。
そして、延滞が9ヶ月になると、自動的に法的処置となり、地元の簡易裁判所などに支払い催促の申し立てをし、裁判所は当事者に「支払い催促」を発行するのだ。
原資の確保を優先するのであれば、元本の回収が何より重要であるのに、日本学生支援機構は2004年以降、回収金はまず延滞金と利息に充当する方針を続けている。
2010年度の利息収入は232億円、延滞金収入は37億円に達した。
これらの金は経常収益に計上され、原資とは無関係の銀行と債務回収会社にいっているのだ。
奨学金が、銀行や債務回収会社に利益をもたらす「金融事業」となっていることが分かるであろう。
一度、奨学金を延滞してしまうと、そこからの支払いは延滞金→利息→元本の順となり、延滞金の年利10%なので、元本の10%以上のお金を支払わなければならない。
このため元本がなかなか減らず、奨学金返済が長期化するという事態に陥っているのだ。
奨学金は、銀行や債務回収会社に利益をもたらす「金融事業」であると同時に、返還する本人や家族の人生を追い込む「貧困ビジネス」になってしまっているともいえよう。