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インフォメーション
題名 | わたしの美しい庭 |
著者 | 凪良 ゆう |
出版社 | ポプラ社 |
出版日 | 2019年12月 |
価格 | 1,650円(税込) |
登場人物
・統理
百音の親代わり。翻訳家・神職・マンションのオーナー。
・路有
同性愛者。隣の部屋に住み、朝ごはんを一緒に食べる。
・百音
10歳。統理と一緒に住む。
・藤森忠志
路有の元カレ
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
マンションの屋上
百音が暮らす五階建てのマンションには、屋上に庭園がある。
緑があふれる小道の奥には、両脇を狛犬に護られた朱塗りの祠がある。
地元の人たちからは『屋上神社』や『縁切りさん』と呼ばれるが、正しくは『御建神社』という。
統理が神職を継いでいる。
百音の家は本人も変わっていることを自覚できるほど変わっている。
百音が生まれる前は、百音の母と統理は夫婦だった。
しかし、諸事情により離婚。母と百音の父が再婚し、百音が生まれる。
百音が五歳のときに母と父が事故で亡くなり、身内のいなかった百音が統理に引き取られた。
百音が八歳のとき、近所のおばさんたちに「なさぬ仲」と噂された。
血の繋がらない親子という意味だ。
でも、おばさんたちの言葉からはもっと別の意味が含まれている、そう感じとった百音は正体不明の不安で胸がざわざわし、統理のもとへ駆け込む。
統理は眉をひそめながら「ぼくと百音の関係はぼくと百音が作り上げるものなんだから、他の人があれこれ言うことに意味はない。」
「百音はいい子だ。ぼくは百音が大好きだ。」と話す。
百音のぎゅっと縮こまった心が、じんわりとほどけていくように感じた。
なにがあってもここに逃げ込めば守ってもらえるんだ、ここはわたしの場所なんだと思えた。
そのあと統理が形代を百音に渡すようになる。
嫌なことがあるたびに統理に形代をもらい、そこに断ち切りたいものの名前を書いて、縁を切ってもらうのが百音の習慣になっている。
路有の過去
路有は屋台バーのマスターで、明け方に帰宅し、百音と統理の朝ご飯を作る。
風の吹くまま気の向くまま、屋台バーの車を走らせ、まるでスナフキンのような生活をしている。
路有はゲイだ。
路有の性的指向は特に隠してはいない。
みんな言葉の端々から察する人は察している。
突然、四年前に交際していた藤森忠志からハガキが届いた。
女性と結婚した忠志が、唐突に時季遅れの暑中見舞いのハガキを送りつけてくる。
メッセージはなく、昔ふたりで観た映画のハガキを使ってくるところが思わせぶりすぎて腹立たしく感じる路有。
忠志は、悪気なく相手を振り回す上に、自分のわがままは許してもらえると信じている。
厚かましいことこの上ないが、そういう人間にありがちな甘え上手なところが魅力のひとつ。
そう思うと路有はさらに腹立たしく思えてならない。
路有はハガキを燃やそうとしたができない。
もう四年も経つのに、相手の思うつぼにはまっている。
なぜ忠志はハガキを送ってきたのか、なにかあったのか、伝えたいことでもあるのかと気にしてしまい、ハガキを手に車に乗る。
統理に二、三日戻らないことを伝えると、察したのか「分かった」とだけ返事がきた。
路有と統理の友情
路有と統理と出会ったのは、高二。
放課後に友人の家に寄り、当時人気だった若手女優の大胆な濡れ場が話題になった映画を観ていたとき。
すでにゲイの自覚があった路有はその場の盛り上がりに合わせられず、女の裸を見てもぴくりとも反応しない自分に傷ついていた。
誰にも言えない自分のセクシャリティに、当時の路有は日々びくびくしていた。
しらけてしまう路有に「ホモかよ」と友人に言われ、真顔で固まってしまう。
友人たちの戸惑いの目に、鞄をつかんで部屋を飛び出してしまう。
いじめはなかったが、異星人を見るような目で遠巻きにされるようになった。
しかし統理は路有の隣に当たり前のようにきて、一緒に歩く。
「理解できないならできないでしかたない。だったら黙って通り過ぎればいい。」と、統理は友人たちに言った。
路有も、世の中にはどうしたってわかりあえないことがあって、それでいいじゃないかと思えた。
それは血のつながった親と子にも当てはまることで、ゲイだということが分かると実家も追い出された。
どんな時でも、路有にずっと手を差し伸べてくれる統理。忠志にふられたときも。
過去との決別
カーナビにハガキの住所を打ち込み、忠志の家に行く。
車から様子を伺っていると、玄関から出ていたのはお腹の大きな女性だった。
四年も経っているのに、ショックをうけている自分に嫌気がさす路有。
すると、ベランダに人影が見える。
忠志だ。転がるように家から出てきた忠志を乗せて、行くあてもなく適当に車を走らせる。
忠志は路有と一緒に逃げたいと言う。
ゲイを隠し、仮面夫婦は演じれても、父親になる自信がないのだと言う。
忠志を家に降ろし、路有は統理の元に形代を貰いに行き、再び忠志の家に戻った。
ヘビースモーカーの忠志が、いくら路有が煙草をやめろと言ってもやめなかった。
しかし、今、煙草をやめた忠志。
それは子供のためだった。
もう十分家族を愛し、親馬鹿になっていることを伝える。
「いいかげん覚悟を決めろ。」
忠志が形代に書いた言葉は『逃げ癖』だった。
百音の思いやり
百音の学校で『思いやり』について話し合う授業があった。
先生は「思いやりとは、自分がされて嫌なことを人にもしないこと」と言う。
帰り道に友達と『嫌なこと』について話しながら帰ると、両親の話題になった。
しかしその後にいきなり友達に謝られ、百音はきょとんとする。
百音には両親がいないのに、両親の話をしてごめんね、思いやりがなかったと口々に謝られた。
百音は憂鬱な気持ちを、統理と路有に話す。
本当の両親がいるみんなにとって、親が死んで赤の他人のおじさんと暮らしているということは不幸であり、だから百音の前で両親の話をしたことを友達は謝った。
自分がされて嫌なことを人にもしないというルールに則って、みんなが百音を思いやってくれた。
でも百音は嫌な気持ちになっていることを伝える。
「失うことや持ってないことで得られるものもある」と統理に教えてもらう。
路有は忠志に振られ、親とも縁を切られ、スッカラカンになったが、屋台バーの仕事や統理や百音とのお隣生活も楽しいし、たくさん得てきたと話す。
そして統理と路有は『俺が嫌なことはみんなも嫌』ではなく、『ぼくたちは違うけど認め合おう』『それでも認められないときは黙って通りすぎよう』の方がいいんじゃないかなど、次々に話し続ける。
ふたりの話はよくわからないことも多いと思う百音だけど、散らかっていた心が少しずつ整頓されていくように感じる。
「百音はどう思う?」と百音にも意見を訊いてくれるから置いてけぼりにはされない。
今日、百音の形代に書いた言葉は『へんな思いやり』だ。
ライターのコメント
家の扉をひとつ開ければ、そこにはいろんな形がある。
価値観も違えば、背景も人それぞれ。幸せに感じる形も人によって違う。
多様性という言葉がこんなに注目を集めているなか、自分の中の価値観だけでは計り知れなくなってきている現代。
本書を読んではっとさせられることが多かった。
そのひとつに、『認められないときは黙って通りすぎればいい』という言葉。
一見、この部分だけを切り取ってしまうと、冷たいって思われるかもしれないが、無駄に傷つけ合うよりは他人同士でいた方が平和ということだろう。
人の数だけたくさんの解釈があるけれど、正解がないからこそ、何も言わずに通りすぎることも思いやりのひとつになる。
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※本記事のセリフ部分については、紹介している本書より引用しています。