【祈りの幕が下りるとき】
読むのに必要な時間 約 5 分
インフォメーション
題名 | 祈りの幕が下りるとき |
著者 | 東野圭吾 |
出版社 | 講談社 |
出版日 | 2016年9月 |
価格 | 1,870円(税込) |
登場人物
・加賀恭一郎(かがきょういいろう)
加賀恭一郎シリーズの主人公。日本橋署の警察官をしている。
・浅居博美(あさいひろみ)
舞台演出家、脚本家、女優。加賀と面識がある。
・田島百合子(たじまゆりこ)
加賀恭一郎の実の母。加賀が幼い時に家を出て行き、既に他界している。
・浅居忠雄(渡部俊一・越川睦夫)
博美の父親で、田島百合子が亡くなる直前の恋人。
複数の偽名を使って、電力関係の仕事に勤めている。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
二つの事件
始まりは二つの事件だった。
一つは押谷道子という女性がアパートの一室で殺されていた事件。
殺されてから既に時間が経過していたようで、死体は腐乱していた。
また、事件現場になった部屋は、押谷の住んでいた部屋ではなく、越川睦夫という男性のものだった。
もう一つの事件は、新小岩駅近くの河川敷でホームレスの焼死体が見つかった事件だった。
ホームレスの男は絞殺されたうえに火をつけられており、凄惨さが伺える。
一見すると、関連性がなさそうな二つの事件だが、事件現場が近いということと、二人とも死因が絞殺だということで、捜査担当の松宮は関連性を調べていく。
しかし、捜査は難航し、松宮は先輩刑事の加賀に相談する。
押谷道子の動向
DNA鑑定の結果、被害者であるホームレス男性は越川であったことが判明する。
また、越川の部屋で遺体で見つかった押谷の動きも判明し、押谷は「浅井博美に会うため」に滋賀から上京していたことが分かった。
浅井は有名な舞台女優で、浅井と押谷は同級生であることが判明。
しかし、ここであることも判明する。
なんと、加賀は以前、彼女に剣道を教えたことがあったのだ。
この事件に関して不思議な縁を感じ始める。
カレンダーと日本橋
様々なことが明らかになる一方で決定的な証拠は見つからず、捜査は停滞する。
そんな中、加賀は越川の部屋にあったカレンダーに目をつける。
川越の部屋のカレンダーには、月ごとに日本橋周辺にある橋の名前が書きこまれていて、加賀はその書き込みに見覚えがあった。
実は、数年前に亡くなった加賀の母の部屋にあったカレンダーにも、月ごとに全く同じ内容が書き込まれていたのだ。
加賀にとって、母の記憶はほとんどないと言って良い。
母の唯一の手がかりは「田島百合子」という名前でスナックに勤務していたということとこのカレンダーだけ。
この二つのカレンダーのメモから、母と川越に関係があったのではないかと推測する加賀。
そして、加賀はこの事件に関わる浅井博美が、越川と関係があったのではないかという結論に至る。
二人の秘密
松宮と加賀は、カレンダーに書かれた橋の名前が何か重要な証拠になるに違いないと考え、橋の周辺で撮られた写真を徹底的に探し出す。
すると、浅井博美が映りこんでいる写真を見つけることに成功する。
この事実から、浅井博美と越川は、決められた月に決められた橋で会っているのではないかと推理する二人。
では、なぜこの二人は隠れて会わなければいけないのだろうか。
浅井の独白
浅居博美の父親、忠雄は商売をしてたのだが、妻が多額の借金をつくって蒸発したことにより、借金取りから追われることになる。
ついに生活できなくなった忠雄と博美は、行くあてもなく北陸の方へ夜逃げし、二人だけの生活が始まる。
貧しい生活が続いたある時、忠雄が突然、高級な旅館に泊まろうと言い出し、博美は不審に思う。
忠雄は自殺することを決め、最後の夜に贅沢をしようとしたのだった。
博美はそれをやめさせるため、近所の食堂で出会った男と金と交換に肉体関係を持とうとする。
しかし、怖くなった博美は男ともみ合いになり、ついにその男を殺してしまうのだった。
それを知った忠雄は、その男になりすまし、生きていくことを決断。
博美の父親は自殺したことにして、博美と別々に暮らしていくことになった。
嘘をつき続けるのが二人にとって生きる術だったのだ。
祈りの幕が下りるとき
その後も、忠雄は名前を変えてたくさんの人間になりすました。
その間、博美とは、手紙でのやりとりを続け、博美が舞台女優になってからは、日本橋で会うようにもなった。
忠雄は、加賀の母・田島百合子と恋愛をし、博美も父親の幸せを応援していた。
しかし、嘘はいつまでもうまくいくものではない。
嘘がばれる度に忠雄は人を殺し、押谷もその被害者の一人だった。
押谷を殺害した後、嘘をついて生きていくことに疲れ切った忠雄は自殺を試みる。
忠雄が自殺しようとしていた現場に駆け付けた博美は、以前、忠雄が自殺に対する恐怖を語っていたことを思いだし、忠雄の首に手をかけた。
父親に自殺をさせるくらいなら、自分の手で父親を殺そう。
娘のために手を汚した父親に対しての感謝と、せめてもの贖罪の気持ちで博美は泣きながら忠雄を殺害したのだった。
こうして、生きていくために複数人の命を奪った忠雄と博美の人生をかけた芝居は幕を閉じるのだった。
ライターのコメント
「誰かを守るためのウソ」がテーマとなっている加賀恭一郎シリーズだが、本作は「生きていくために嘘をつき続ける孤独さ」が描かれていると感じた。
親子が生きるためについた嘘が、結果的に多くの人の命、最終的には父親の命まで奪うことになってしまったのは、悲しいことである。
また、作中に出てくる橋の謎かけが面白く、それが加賀と加賀の母とも関わってくるという部分には流石としか言えなかった。
加賀恭一郎シリーズの謎が明らかになった本作は、スッキリすると同時に寂しさを感じる一冊である。
映画にもなった本作は、それぞれの俳優さんたちの個性が光り、まさに本シリーズの「終演」にふさわしい。
是非そちらもチェックしていただきたい。