【東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか】

インフォメーション
| 題名 | 東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか |
| 著者 | 中村 淳彦 |
| 出版社 | 東洋経済新報社 |
| 出版日 | 2019年4月 |
| 価格 | 1,650円(税込) |
〝その日暮らしは十分できます。
もっと経済的に厳しい人がいるのも十分承知はしています。
けど、ずっとギリギリの生活で、なんの贅沢もしていないのに貯金すらできない。
年齢ばかり重ねて、私はいったいどうなってしまうのだろうって〟
貧困は、経済的な貧しさ、病気、希薄な人間関係、孤独、救済制度の知識不足など、
ネガティブな要素が重なって深刻さが増していく。
特に、家賃が高く、地域の縁が薄い東京暮らしは、躓いて貧困に陥りやすい。
東京の貧困女子の苦境を聞きながら、なんとかならないかと何度も思ったが、
自己責任の言葉は止まらないので、状態はもっと悪化するとしか思えない。
無理解が蔓延する現状ではSOSを出しても、どこにも届かない可能性が高い。
いつ誰が転落するかわからない社会である以上、
貧困女子たちの声は誰にとっても他人事ではないはずだ。
どこかのタイミングで女性から中年男性にシフトチェンジするかもしれない。
私自身、取材で出会った彼女たちと遠くない未来の自分の姿がダブって怖くなった。
***
奨学金という名の数百万円の借金に苦しむ女子大生風俗嬢、
理不尽なパワハラ・セクハラが日常の職場で耐える派遣OL、
民間企業よりもひどい、まじめな女性ほど罠に陥る官製貧困、
明日の生活が見えない高学歴シングルマザー…。
貧困に喘ぐ彼女たちの心の叫びを「個人の物語」として丹念に聞き続けたノンフィクション。
東洋経済オンライン1億2000万PV突破の人気連載、待望の書籍化!
いま日本で拡大しているアンダークラスの現状が克明に伝わってくる。
引用:東洋経済STORE
ポイント
- 非正規雇用や家族との断絶、シングルマザーの困窮など、表面化しにくい「女性の貧困」を取材を通してリアルに描き出している。
- 取材対象者の多くは、学歴や職歴など普通の女性と変わらない背景を持ちながら、経済的困窮に追い詰められていく。貧困が個人の責任だけではなく、社会の仕組みに起因することを問題提起している。
- 行政の支援が届かない層や、支援制度を利用できない女性たちの実態を通して、社会的支援の再構築の必要性を問う内容となっている。
サマリー
音声で聴く
はじめに
本書は、東京を始め都市部で暮らす女性たちが「貧困」に陥る過程を、個別のインタビューやルポルタージュを通じて描いたノンフィクション作品である。
著者は長年、AV女優や風俗嬢、介護現場など、社会の制度やセーフティネットからこぼれ落ちる人々を取材してきた。
この経歴から、女性の貧困は個人の甘えや責任だけではなく、日本社会の構造に欠陥があることにも原因があると訴えている。
女性の貧困問題解決の糸口を見つけるには、個々の生活をつぶさに見ることで事実を浮かび上がらせるしかないというのが著者の考えだ。
そのため本書は、貧困女性一人ひとりの「個人の物語」に焦点を当てて紹介している。
年齢や立場のまったく異なる貧困女子たちを丁寧にインタビューし、どのように躓き、そして落ちてしまったのかがリアルに描かれた内容となっている。
彼女たちはなぜ躓いてしまったのか?
彼女たちが躓き貧困に至ってしまった原因としては、主に以下の原因が挙げられる。
高額な大学進学費用
高校生の求人数減少のため、世代が低所得であるにもかかわらず大学へ進学するという動きに拍車がかかっている。
本書によると、高卒の求人数は1992年には167万6,000人であったが、2011年にはそれが19万4,000人まで減少している。
人手不足が顕著になった2017年からは上昇したものの、現在は43万2,000人で1992年の水準とは比較にならない。
高卒求人数の大幅な減少に伴い、必然的に大学や専門学校への進学を誘導されることになるが、学費は上昇の一途をたどっている。
1966年に年間1万2,000円であった国立大学の学費は、現在は53万5,800円となり実に44倍となっている。
一方、世帯年収の推移は1994年に664万2,000円であったものが、現在は560万2,000円となっている。
学費は大きく上昇しているにもかかわらず、世帯年収は減少しているのだ。
収入における学費の割合が高くなり、親世帯は高等教育費を支払うことができなくなってしまった。
奨学金とは名ばかりの金融ビジネス「大学奨学金」
上記の理由から、どこからか進学のための資金を調達しなければならない。
ここで登場するのが日本学生支援機構の「大学奨学金」である。
大学奨学金の金利は変動型で、現在は0.01%という低金利で推移してはいるものの、低金利時代が終われば上限金利の3%まで跳ね上がることになる。
厳格な運用が条件となっている融資にもかかわらず、親世帯の収入が低いことが認められれば審査に通る仕組みだ。
無担保の上に債務者である「学生本人」の弁済能力は問われない。
そのため、返還滞納が相次ぎ問題になっているのだ。
日本学生支援機構は、財政投融資や民間資金を財源にして利子で利益をあげる「奨学金」とは名ばかりの金融ビジネスとなってしまった。
著者は、高校卒業前の低収入世帯と認められた未成年者に有利子のお金を貸し付けることは、あまりにも無謀であると強く訴えている。
低賃金で働かされる非正規雇用
本書では、非正規雇用のため生活費を補うことができない女性も多く紹介されている。
現在の女性の非正規雇用率は55.5%と、実に全体の過半数を超えている。
非正規雇用は1992年と2004年に施行された労働派遣法改正から急激に広がった雇用形態だ。
非正規雇用の拡大で、日本は「格差社会から階級社会に変換した」と様々な場面で叫ばれるようになった。
企業は一度非正規雇用として採用した安価で働く人材を、わざわざ正規転換はしない。
そのため、非正規雇用がその企業内で這い上がれることはほとんどない。
職場における非正規雇用の理不尽さ
某家電量販店の非正規雇用者である23歳女性の例では、非正規が企業の使い捨ての人材となっている現状が紹介されている。
業務中は休憩がなく、立ちっぱなしの状態でずっと接客をやらされている。
トイレに行くこともままならないため、彼女たちは水分をとらないようにしているという。
売り場は正規の社員を頂点に厳然なヒエラルキーがあり、パワハラの温床にもなっている。
非正規の派遣社員に求められているのは顧客本位の接客ではなく、厳しいノルマの達成だ。
正社員が聞いたことに答えられなかったら即解雇という非情な扱いも、彼女たちを容赦なく追いつめている。
人間関係の断絶と孤立
離婚、家庭内暴力、親の無関心、地域のつながりの希薄さなども貧困の原因だ。
こうした状況下では助けを求める関係や情報、支援が得られず孤立が深まる。
さらに、貧困状態が続くと精神的にも体力的にも追い込まれ「自分は抜け出せない」と閉塞感を抱くことが少なくない。
生きていくのに、周りの人間関係は絶対に必要である。
それは、自分自身の選択を客観視するためである。
もし、周りに人間関係がないと、自分が誤った選択をしたときに方向修正をすることは不可能だ。
「人間嫌いであるから」という理由で、一貫して人間関係を拒絶してきた30歳の貧困女性の例では、自分が間違った選択をしているという自覚がないまま生活を送っている。
彼女は「生きるために必要なものまで捨てている」という感覚がないまま、どんどん厳しい環境に追い込まれている。
健康が失われ、医療費がかさみ、負の連鎖が止まらない。
人間関係を捨て、地域を捨て、自分ひとりで抱え込む状態を自ら作り出してしまっている。
