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インフォメーション
題名 | 傲慢と善良 |
著者 | 辻村 深月 |
出版社 | 朝日新聞出版 |
出版日 | 2019年3月5日 |
価格 | 1,760円(税込) |
登場人物
・西澤 架(にしざわ かける)
主人公。婚活を経て坂庭真実と出会い、婚約まで至る。
真実が行方不明になり、彼女の故郷や過去を探ることになる。
・坂庭 真実(さかにわ まみ)
架の婚約者。自分の意思が薄く、ある日突然行方不明になる。
婚活がうまくいかないことなどにコンプレックスを持っていた。
・美奈子(みなこ)
架の女友達。真実のことを良く思っていない。
・坂庭 陽子(さかにわ ようこ)
真実の母親。真実を溺愛するあまり、真実の行動に口出ししたり、真実の婚活に協力したりしていた。
あらすじ
※一部、ネタバレを含みます。
※本記事は要約記事ではなく、自身の言葉であらすじ及び感想を書いたものです。
消えた婚約者
ある日、架が学生時代の友人である美奈子たちと飲み会をしていると、恋人の真実が自分の部屋にストーカーがいると電話が。
心配した架は自分の家にくるように指示し、それから真実は架と一緒に暮らすことになる。
その後、架は真実に結婚を申し込み、晴れて二人は婚約者となった。
しかし、結婚式を控えたある日、架が家に帰ると真実が家にいない。
次の日も真実は帰ってこず、心配になった架は群馬に住んでいる真実の両親にも話し、現在住んでいる東京に来てもらうものの、家族も心当たりがないという。
警察に通報するものの、事件性が感じられない捜査は断念。
架は、真実が群馬にいたときにお見合いをして、振ってしまった男性がストーカーだと話していたことを思い出し、どうしてその時に警察に相談しなかったのか自分を責める。
また、真実の両親はもしかすると真実が自分の意思で家出をしたのかもしれないと考え、世間体のためにもこの失踪を大ごとにしたくないようだった。
そんな真実の両親にも嫌気がさした架は、自分で真実の居場所を突き止めようと、群馬で結婚相談所をしている小野里の元へ向かう。
真実の過去
真実は数年前までは、群馬の県庁で、臨時職員として働いていた。
恋人ができなかった真実は婚活をすることになり、母親の陽子に頼んで知り合いの結婚相談所に登録することに。
この結婚相談所で、真実は二人の男性と出会う。
一人は陽子が最初に見つけてきた高学歴の男。
しかし真実は相手のファッションセンスなどを理由に断る。
次の彼は、自分で選んだ好みの外見の男性。
しかし話がどうしても続かなかったため、今度も真実は断った。
真実の両親の話と小野里の話から、架はこの結婚相談所で出会った二人はストーカーの犯人ではないだろうと思ったが、念のため二人と会うことに。
一人目の彼は確かにカジュアルで社会人とは思えない服装だったが、すでに結婚をし、三人目の子どもがもうすぐ生まれるとのことだ。
二人目の彼はいまだに独身で、確かに会話も続きませんでしたが、失踪した真実のことを本気で心配しているように見えた。
真実の嘘
どう考えても真実は誘拐されたように思えず、かといって自分の意思で失踪しているにしてもなんとなく変だと思っている矢先に、架は友人の美奈子たちに呼び出される。
美奈子によると、真実が本当はストーカーの被害にはあっておらず、架に結婚に踏み切ってもらうための嘘ではないか、と言うのだ。
話は過去に遡る。
真実が失踪した前日、真実は寿退社する職場の退職祝いをレストランで行っていた。
その場にはなんと、美奈子たち友人も偶然居合わせていたのだ。
真実のことを知っていた美奈子は、「結婚祝いをしてあげる」と真実を自分たちのテーブルに呼び、ストーカーの話は嘘だとわかっていると真実に告げる。
美奈子たちは真実の言うストーカーの被害に矛盾点がたくさんあることを見抜いていたのだ。
実際に、美奈子たちが真実に言ったことは当たっていた。
彼女たちは架にはこのことを言わないと言ったものの、最後に言われた「架が真実のことを70点の相手だと言っていた」という言葉にショックを受ける。
真実は架のことを100点の婚約者だと思っているのに、相手はそうではなかった。
真実が失踪したのはまさにこの出来事が原因だった。
再会
行き場をなくし失踪した真実は、宮城県の被災地のボランティア活動に参加。
そこでは、いろいろな事情を抱えた人々が協力しあって、あらゆる活動をしていた。
真実は写真館で写真を綺麗にする手伝いや地図作りのバイトをし、少しずつ周囲の人たちになじんでいく。地図作りの仕事にも慣れ始めたころ、真実は偶然神社を発見。
神社の特徴的な模様を見て、「これは写真館で見た、誰のものかわからない結婚式の写真の舞台だ」と確信した真実は、写真館の人たちにその写真を持ってきてもらい、写真の持ち主を探すことに。
すると、持ち主が見つかり、感謝される真実。
自分の行動で写真の持ち主がわかったことで、自分の存在意義を感じることができ、真実は感動する。
その日の夕食時、写真館を手伝っている学生からインスタを見せてほしいと言われた真実は久しぶりに自分のアカウントにログインする。
すると、コメント欄に架から、ストーカーがいないことはわかっているから話がしたい、というメッセージを見つける。
どうしていいかわからなくなった真実は、その場にいる人たちに自分がどうして宮城にやってきたか、婚約者から逃げてしまったことなどを話す。
その場にいる人々から「大恋愛をしているんだね」と優しい声をかけられた真実は、意を決して、架に連絡をする。
今は少しだけ待ってほしい、必ず連絡をする、と伝えると、数か月後、架は宮城までやってきた。
真実は架にストーカーが嘘であることを謝り、自分が70点の相手と言われて悲しかったこと、美奈子たちと一緒にいることが苦痛だったことを訴える。
架はすべてを受け入れ、もう一度真実にプロポーズ。
その後、地図作りの際に出会った神社で二人だけの結婚式を挙げ、今度こそ幸せをつかもうと願うのだった。
ライターのコメント
本書のタイトル「傲慢と善良」それを一番感じたのは架が美奈子から真実の嘘について聞くシーン。
「親切で言っているんだけど」と言わんばかりの彼女たちの行動はまさに傲慢そのもの。
それに対する真実も素直であるが故の傲慢さを抱えている。
この世のすべての人間は傲慢であり、善良でもある。
だからこそ、彼らの気持ちがわかってしまう。
「人生で一番刺さった小説」と称されるのにもうなずけるのはそういう部分だろう。
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※本記事のセリフ部分については、紹介している本書より引用しています。